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よしなしごとども 書きつくるなり
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吉村昭(中央公論新社)

16の短編が収められている。
「法師蝉」が特に面白かった。
学生時代の同期会に出席したあと、同級生のひとりが亡くなったという一報を受け取った星野。
その死を想ううちに、彼は様々な事柄を思い出す。少年時代、庭で羽化する蝉を見つめたこと。若い頃に肺結核に罹り、病床で絶望を味わったこと。
妻に訃報を伝え、彼女との若かりし頃の出来事にも思いをはせる星野であったが……。

同じようなモチーフを扱った短編がいくつか収められていたが、たとえば肺結核の話は何度も出てきたが、どれも新鮮な気持ちで読めた。
卵は一緒でも目玉焼きあり、厚焼きあり、オムレツありで、料理次第でどうとでもなる、という見本のような短編集だった。
その味付けが素晴らしく、「法師蝉」の中で蝉の羽化を描いたシーンは特に秀逸だった。
蝉の殻の背が割れて……「停止しているかと思うほど動きはかすかだが、チューブから押し出される透明な軟膏のように体が上方にのびてゆき、」……ぞくぞくした。

こういう作家は令和でも現れるのだろうか。
淡々と描写しているようで、深々と人を物事をえぐっていく。
昭和という時代があったからこそ成せる業だったような気もする。

100点

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米澤穂信(新潮社)

 6つの短編が収められているが、内容が多彩で非常に楽しめた。特に面白かったのは『万灯』。

 商事会社に勤める伊丹は、資源開発の任を得てバングラデシュに行く。天然ガス採掘のための拠点にするべく目を付けたのは小さな村だった。
 そこには数人の長老がいたが、一人の長老が彼らの計画にまっこうから反対し、交渉は難航を極めた。
 そんなとき、別な長老たちから伊丹は恐ろしい計画を持ち掛けられる……。

 世界を股にかけるビジネスマン、伊丹。大きな壁にぶち当たった彼の苦悩、焦りなどの感情が短い文章からあふれ出す。
 彼の行いは正しくなかったかもしれないが、熱意にほだされて思わず応援したくなったのも事実だ。
 そしてラストに明かされる残酷な真実。伊丹の運命やいかに? と、読了してもなお、しばらく作品のことが頭を離れなかった。
95点

米澤穂信(東京創元社)

 体調を崩して銀行員を辞めた長一郎が始めた商売は、探偵事務所。犬捜しを専門にしたかったのだが、最初に舞い込んだ仕事は人捜し。学生時代の後輩・半田も仲間に加わり、長一郎は調査に乗り出すが……。

 人命にかかわるような重大事件と、どうでもいいような事件がランダムに起きて、その落差が面白かった。まじめとおふざけ、それは長一郎と半田の性格でもあった。2人の対比もまた物語に陰影をつけている。
 終盤で、人捜しも大詰めを迎えるわけだが、意外にも緊張感あふれるシーンが繰り広げられる。たかが人捜し、だったのに……そのあたりの展開も読みごたえがあった。
80点

米澤穂信(集英社)

 伯父の古本屋を手伝う芳光。店を訪れた見知らぬ女性・可南子から、彼女の父親が書いた小説を探して欲しいと依頼を受ける。同人誌から、パンフレットのような雑誌から、5個あるという小説は見つかっていくが、芳光は可南子に対して、ある疑念を抱くのであった……。

 初めて読む作家だったが、文体も気に入ったし、非常に面白かった。
 作中作の5つの小説も、少し古めかしい雰囲気を醸し出しつつ、きちんと謎が仕込んであって読ませる。
 可南子が、それぞれの小説の結末、最後の1行を所持している、という設定も興味をそそられたし、なぜ彼女の父親が小説なんて書いたのか? という謎解きも面白かった。
 久しぶりに活きのいい日本の作家に出会えた、そんな気にさせてくれる一冊であった。
90点


吉田篤弘(筑摩書房)

 「一角獣」「百鼠」「到来」という、三つの話が収められている。表題作の「百鼠」を紹介しよう。
 主人公はイリヤという朗読鼠。彼らは天上から地上を見下ろし、そこにいる作家に、物語を語って聞かせる。地上で生まれる三人称の小説のすべては、はるか昔ゲーテの時代から<百鼠>の中の、朗読鼠が読んできたのであった……。

 捉えどころのないストーリーであった。天楼F棟にあるという朗読室。物語の骨組みを決めるという<読心坊>。一人称小説が手に入る闇本市場。筆者が作り出したそれらの世界を、私もイメージしようと努めたが、どうもうまくいかなかった。
 イリヤが数分だけ過ごした地上……新宿御苑の緑だけが、生々しく私の心にも映し出された。
 こういう想像力を必要とする不思議話は、川上弘美氏の作品もそうなのだが、疲れる。
70点
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