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よしなしごとども 書きつくるなり
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ドニー・アイカー・著、安原和見・訳(河出書房新社)

1959年。冷戦下のソ連で起きた遭難事故。9人もの登山チーム全員が死亡、しかも目を覆いたくなるような死に様だった。
50年以上経った今現在でも、謎が深まるばかりのこの事件。
米国人の著者が真実に迫るドキュメンタリー。

事件当時の話と、著者が取材をしている現代の話が交互に語られ、しかも登場人物がかなりの数に登るため、最初は戸惑った。
しかし読み進むにつれ、若い登山者たちのいきいきとした描写や、対比するように明らかになっていく不気味な事件の真相に引きつけられた。
雪崩、現地人による殺害、仲間割れ、UFO、熊……すべての可能性を精査し、ひとつひとつ潰していく。その気の遠くなるような過程に挑み、最後には矛盾のない結論にたどりつく。
著者の努力は察するに余りあるが、その結論は少し地味だった。真相とは得てしてそういうものだろうが。

しかしソ連(ロシア)という国には本当に嫌悪感しかない。
指導者が変わっても強制収容所が存在し続け、体制側に反抗する者はどんどんそこへ送り込まれた。
この作品の2012年の記録にこうある。登山チームから途中脱落して生き延びたユーディン氏の証言だ。
(スターリンの時代は)貧しかったが何でも安くて暮らしやすかった。しかしプーチン政権下では国民はプランクトンも同然だ。金がすべて。エリツィンが悪いんだ。

さらに10年経った今、プーチンは。ため息しか出ない話である。
90点

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ルシア・ベルリン(講談社)

短編集。「沈黙」を紹介しよう。
テキサスに引っ越しした「わたし」は高級な女子小学校に入学する。学校には馴染めず図書室だけが心のよりどころだった。しかし校内で盗難事件が起きて「わたし」に疑いの目が向けられ……。

どれもこれも筆者の実体験に基づいた作品だという。
脊椎湾曲症で浮浪児みたいな服装の「わたし」。アル中ですぐ暴力を振るう母親。歯科医としての腕はいいが変人の祖父。家も学校も地獄だったと彼女は言う。そんな地獄がさらりと描かれている。
本当に、さらりと。その率直さに胸を打たれた。たとえばこんな一節。
ホースから直接水を飲んだら、先生にホースをひったくられて、野蛮人と言われた。

子どもになら酷い言葉を投げつけていいと思っている大人は多い。しかし言われたほうは深く傷つくし、決して忘れない。

この短編は少女時代の話だが、筆者はバツ3でシングルマザーとして4人の子どもを育てたそうだ。いろいろな仕事をし、自身のアルコール依存にも苦しんだ。
そんな苦難に満ちた人生が、彼女の創作の原動力であったのかもしれない。
70点

ピエール・ルメートル(文藝春秋)

 男に誘拐され、小さな木箱に押し込められたアレックス。次第に衰弱し、死は目前に迫る。男の狂気、腹を空かせて彼女を狙うねずみたち……アレックスは生き延びることができるのか?

 何を書いてもネタバレになる、ということで「面白いからとりあえず読んで!」と言いたい。
 テンポ、申し分なし。警察関係者のキャラクター設定、ばっちり。犯人の(それって誰だろう?)動機、説得力あり。
 唯一の難点は、たくさん出てくる残酷なシーン、だろうか。そこはまさに字づらだけ読んでやり過ごした。こういうのは想像したら負けなのだ。

 久々に「このミス」1位の作品を読んだが、期待を裏切らない一冊であった。
90点

フレッド・カサック(東京創元社)

 二つの中編が収められている。
 私は表題作より「連鎖反応」のほうが気に入ったのでそちらを紹介したいと思う。
 観光協会に勤めるジルベール。彼には可愛い婚約者がいたが、以前から付き合っていた女性が妊娠してしまう。彼は、より多くの収入を得るために昇進したいと強く願う。そのために上司を殺す計画を練るが……。

 ジルベールが虎視眈々と殺人の機会を狙って苛立つ様子がうまく描かれている。「ミステリ小説で読んだのとは大違い」だと嘆く彼は、罪を犯そうとしているのに「最善を尽くす」とのたまう。その勘違い加減が笑える。
 ラストのエピローグもひねりが効いていて良い。
75点
コーマック・マッカーシー(早川書房)

 舞台は(おそらく)核戦争後の地球。廃墟のなか、父と息子は南を目指して旅をする。カートに必要最小限のものを詰めて。生物はほとんどいないが、生き残りの人間同士が出会うと死闘は必至だった。そこでは人肉も貴重な食料だったから……。

 確かなあてもなく、ただ父と息子が歩いていく話。こう書くと退屈そうだが、どっこい手に汗握るストーリーで最後まで飽きるということがなかった。
 まず息子の善良さに心を打たれた。ときには非道を働こうとする父を、彼はあふれる涙で抑止する。荒みきった世界にあって、彼の純粋さはひときわ際立つ。
 それから父と息子の静かなやりとりが良い。
 ……ぼくたちは今でも善い者なの? ああ。今でも善い者だ。 これからもずっとそうだよね。 そう。これからもずっとそうだ。 わかった。
 短い文に込められている、二人のたくさんの想いと願い。どうぞそれらを踏みにじらないでと、この物語の世界には存在しない、するわけがない神にすがりたくなるほどだった。
90点
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