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よしなしごとども 書きつくるなり
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小林多喜二(新潮社)

 オホーツク海で操業する蟹工船。元農夫、坑夫、学生などの乗組員は、過酷な労働を強いられていた。死と隣り合わせの毎日を生きるうち、彼らは次第に団結してサボタージュを行うようになり……。

 船底にある「棚」が乗組員たちの寝床だ。シラミや南京虫があふれ、悪臭ただよう不衛生極まりないそれを、彼らは糞壺と呼んでいた。昼は長時間労働、夜は糞壺。彼らがやがて立ち上がりストライキを起こすのも、むべなるかなであったろう。
 虫けらのように殺される運命なら一矢報いたい……彼らの叫びは搾取される側の共通した叫びだと思った。
 もう一つの中編「党生活者」も共産主義者を描いたスリリングな一編であった。

 筆者は左翼文学運動をして逮捕され、警察の拷問によって殺されたそうだ。言論の自由もへちまも無かった時代に、命を賭して作品を書いていた筆者の気迫が感じられる一冊であった。
65点
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五味太郎(講談社)

 筆者は絵本作家として有名だが、こういう本も面白い。百五十個の短いフレーズが載っている。
 その内容は、どれをとっても、手放しで納得できるような一文ばかりであった。
 ふとした瞬間に、こういうことを心の片隅の、そのまた裏側あたりで考えているような気がするのだが、うまく表現できない。それをこうして言葉にしてくれる人がいると「やはりA=Bであったか」と、確認できて嬉しい、そして楽しい。
 絵も言うまでもなくユニークで、そちらを眺めるだけでも楽しい。
80点
小山清(講談社)

 太宰治にその才能を愛されたという筆者の短編集。
 ごく普通の人々の生活を、飾らない、ほとんど素っ気無いと言ってもいいほどの言葉で描いている。静謐で美しい文章である。

 『落穂拾い』、『日日の麺麭』といった短編も素晴らしいのだが、太宰について書いた『風貌』という作品がまた良い。
 筆者が初めて太宰を尋ねて行ったときのこと。
 作品に対する太宰の評……「僕がいいと云えば、天下無敵だよ」。
 金を無心したら、太宰はスズランの花を小切手に同封したという。
 それらのエピソードが、太宰に心酔している私の心には感慨とともに染み入ってきた。
 筆者を思いやる太宰の優しさ。ふとした拍子に見せる茶目っ気のある態度。鬱々として人生を楽しめなかったような印象のある太宰だが、心を開いた相手にはなかなか愛嬌のある人物だったらしい。
90点
今東光(集英社)

 天台宗大僧正、中尊寺貫主、参議院議員、直木賞作家、という今東光氏が、週刊プレイボーイ誌に連載していた人生相談をまとめた一冊。
 「毒舌」と断ってはいるものの、ここまでとは。いやはや度肝を抜かれた。

 好きな女性にいたずら電話を繰り返す男性には「悪いことは言わん。死にな」。
 能力別クラス編成については「大賛成。それは差別ではない、同じ能力のある連中をひとまとめにするんだから、平等もいいところじゃねぇか」。
 なんて具合に、読者の質問をばっさばっさと切り捨てていく。小気味良いったらありゃしない。

 また、川端康成や菊池寛の学生時代の逸話など、興味深い話もいろいろあり、最初の「I 恋愛とセックスの悩み」の部分(あまりに過激)で放り投げなくて良かった、と思った。
55点
近藤史恵(新潮社)

 プロの自転車競技の選手・白石。ロードレースで、彼はアシストとして活躍する。エースのために、エースを優勝させるためにだけ走るアシスト。彼は自分の役割に満足していたが……。

 ロードレース? それって一体? とまったく期待せずに読んだが、面白すぎて一気読みしてしまった。自転車という、シンプルにして肉体と一体化する乗り物を操り、山を峠を駆け抜けていく男たち。その駆け引きに魅了された。
 ある事件が起き、終盤ですべてが明らかにされるわけだが、登場人物たちの思惑が入り混じり入り乱れ、とても読み応えがあった。
 ただ、この主人公はいけ好かない。いつも超然として、訳知り顔で場の隅に佇んでいるような男。タチが悪い。
85点
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