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よしなしごとども 書きつくるなり
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西加奈子(ポプラ社)

アイは、アメリカ人の父と日本人の母を持つ。生まれはシリア、乳児のころ養子としてもらわれてきた。優しい両親、経済的にも恵まれた環境で育ったアイだったが、自分の出自については常に思うところがあった。なぜ自分がこんな幸運に預かれたのか? 自分はここにいていいのか……?

アイの健気さにまず打たれた。いつも裏の裏まで人の心を読もうとする。しかも相手に悟られないように。そして恵まれている自分の立場を、いつも計っている。世界中に不幸は在るのに、自分はぬくぬくと幸せを享受していていいのか、と。
こんな心情は中二病と名付けることもできそうである。しかしアイの揺れ動く気持ちをあの手この手で描き切ったこの作品は、そんな次元は越えて私の心に刺さった。
アイの友人・ミナもアイとは違う種類の悩みを抱えている女性。しかし彼女は強く聡明で、彼女が登場すると読んでいてほっと一息つけるような、そんな存在であった。

子どもから大人になるアイの成長譚でもあるこの作品。アイの周囲はデキた人ばかりで、そこが少し疑問ではあったが、感動できる部分が随所にあって、とても楽しい読書だった。
95点

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西多昌規(草思社)

精神科医である筆者が出会った患者たち。
隣家の人が毎日カレーを作って匂いで嫌がらせをするという50代女性。
書類の数字を一度間違えただけなのに、眠れないほどの不安を覚えるキャリア官僚の男性。
自慢話と苦情が止まらない、サイコパス気質の男性。などなど。

多種多様な病態を読んでいくと、自分の身近にいる人にも当てはまることがあったりして、ぞっとした。
そのあたりを筆者も考えたのか、「この人を異常と判断していいのだろうか」と悩んだ例も挙げている。

それから興味深かったのは、医師も人の子、ということである。
ねちねちと嫌味を言うような患者には「私の胸は怒りで熱くなってきた。一刻も早くこの面接を切り上げたい」と思ったそうだし、面倒な患者を医師同士で押し付けあったりもする。
病院をサービス業扱いして傍若無人にふるまう人もいるようだが、それで医療の質に差が出てはいけないのだが、相手も感情を持ったひとりの人間だということを忘れてはならないと、今さらながら思った。
80点

梨木香歩(新潮社)

 思春期の女の子照美は、謎の洋館に忍び込んだ。屋敷内には大鏡があって、彼女はその中に存在する「裏庭」という異界へと誘なわれる。

 照美の大冒険は「ファンタジー」と呼ぶには設定が複雑すぎるような気がした。が、分からない部分は流して読んでしまっても大勢に影響はない。
 裏庭では彼女が何かを思った瞬間に世界が切り替わる、という部分がある。その辺が「所詮は夢物語」と読み手に思わせてしまう粗さを感じた。
 良かった点をひとつ。彼女のなかで膨らんでいく孤独感、寂寥感は丁寧に描かれていて、上手い。幸福な結末を望まずにはいられなかった。
60点
夏目漱石(新潮社)

 家出をした19歳の主人公は、偶然知り合った男に誘われるままに銅山で坑夫になることを決心する。野卑な坑夫たちに愚弄されながら、彼は坑内を地中深く降りてゆくという、悪夢のような体験をする。

 事件らしい事件は起きないのだが、全編に小技の効いたユーモアが散りばめられていて飽きさせない。主人公の青年は、話しかけてきた男を「どてら」と命名してみたり、『汽車に乗っていたんだ、坑夫になるんだ、どうしたんだ、こうしたんだと、十二、三の「たんだ」が一度に湧いてきた……』などと表現してみたり。枝葉の部分でくすりと笑わせられた。
 また、本書の主題と思われる、人間の思考なんて所詮流動的なもので、そこに絶対を求めるのは無理だという、主人公の諦めめいた思いに、深く納得させられた。
 ところで60ページ目に、今どき珍しい伏字があった。何と記述してあったのか、気になるところである。
85点
夏目漱石(角川書店)

 高校の教科書に抜粋が載っていた。
 全文を読んで、当然のごとくさらに感動した。先生の心理、Kの思い、先生の奥さんの悲しみ。読めば読むほど心に沁みた。
 この作品は「ミステリー」だという解釈もあるらしい。確かにKが自殺するあたりは、意外性も緊迫感もあり、ミステリー、しかも一流の、と言っても過言ではないと思う。
95点
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