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よしなしごとども 書きつくるなり
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平野啓一郎(文藝春秋)

幼い息子を病気で亡くし、夫とも離婚した里枝。やがて彼女は谷口大祐という男と再婚するが、彼も事故で亡くなってしまう。しかも大祐は全くの別人だということがわかり、困り果てた里枝は、弁護士・城戸に相談するが……。

筆者の作品を初めて読んだが、非常に面白かった。勝手にスカした小説家だと思い込んでいたが、確かにスカした文章だったが、面白さが不快さを上回った。

登場人物たちは、それぞれに過去を背負って生きているが、「愛してた」という事実は相手の過去を知ったら変わるのか? という命題が突き付けられる。
優しくて子ども思いだった大祐、しかし過去に関する話はすべて嘘だった。いつか打ち明けるつもりだったのか、それさえももう分からない。里枝のとまどい、逡巡は察するに余りある。
だからこそ終盤で彼女がみせる、ある決意は輝きを放っていたと思う。

以下、余談。
城戸は在日三世という設定だったが、それ要る?
帰化しててほぼ日本人だし、本人が無理に隠そうとしているわけでもないし。
詐欺師に指摘されるシーンでは背筋がぞくっとしたけど、まさかそのためだけに入れたんじゃないよね? と疑問がわきました。
90点

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百田尚樹(幻冬舎)

 その醜さゆえに誰からも相手にされず、苦しい人生を歩んできた未帆。彼女が美容整形で絶世の美女に変身したとき、周囲の態度は一変した……。

 生まれついての美女ではない未帆の、相手を試さずにはいられない性(さが)が物悲しかった。
 美貌で誘っておきながら、表面しか見ない男を嘲笑する。一体どうして欲しいのか……彼女の複雑にねじ曲がった人間性に、次第にイライラが募った。
 ラストも後味が悪く、どんな男も俗物だと切って捨てるような描写にげんなりした。
60点

樋口有介(講談社)

 警視庁(でも経理課)を定年退職した木野塚氏は、私立探偵事務所を開設した。
 彼は残りの人生を思いっきりハードボイルドに生きてゆくつもりであったが、思惑どおりにはいかず……。

 これは愉快だ。小心で思い込みが激しくて冴えない木野塚氏は、愛すべき日本のオヤジそのものである。
 多くのたわ言を開陳してくれるが、不思議と憎めない。有能(?)な秘書の桃世とのやりとりもまた笑わせてくれる。
 ただ、桃世の正体が「ありがち」で、ちと残念だった。
75点
久生十蘭(筑摩書房)

 十蘭の魅力を存分に味わえる14の作品が収められた一冊。
 私が気に入ったのは『予言』。
 画家である安部は、ふとした誤解が元で石黒という男の恨みをかう。その石黒が、ある予言をした。安部は将来、拳銃自殺をするというのである。
 はじめは一笑に付していた安部だが、予言がことごとく的中してゆくにつれ、絶体絶命の境地に陥ってゆく……。

 いかなる深刻なシーンでも、一種の「軽さ」が失われることがない。安部の飄々とした性格のなせる業でもあろうが、筆者自身が、憂愁に閉ざされることを厭う気配がうかがわれる。
 また、細部にまで神経が行き届いた表現が使われていて、初冬の夕暮れの描写、セザンヌの絵画についての描写など、ぞくぞくするほど素晴らしかった。
85点
久生十蘭(中央公論社)

 代々ガン死する家系に生まれた久美子。彼女はある日見上げた月が肌色に見えたことから、自分の死期を悟り、自殺するために旅立つが、そこで奇妙な事件にまきこまれてゆく。

 この作品集(中公文庫版)の白眉は、筆者の夫人が書かれた「あとがき」である。夫人は筆者が志半ばで逝ってしまったあと、作品の続きを書き上げ、その闘病の様子を「あとがき」に記している。最後まで書くことに執念を燃やす筆者、支えようとする夫人。初めて「あとがき」で泣いた。
 作品自体は、推理小説としては甘い筋立てであるが、どこか茶目っ気のある文章で、楽しんで読むことができた。
80点
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