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花火 吉村昭後期短編集

吉村昭(中央公論新社)

16の短編が収められている。
「法師蝉」が特に面白かった。
学生時代の同期会に出席したあと、同級生のひとりが亡くなったという一報を受け取った星野。
その死を想ううちに、彼は様々な事柄を思い出す。少年時代、庭で羽化する蝉を見つめたこと。若い頃に肺結核に罹り、病床で絶望を味わったこと。
妻に訃報を伝え、彼女との若かりし頃の出来事にも思いをはせる星野であったが……。

同じようなモチーフを扱った短編がいくつか収められていたが、たとえば肺結核の話は何度も出てきたが、どれも新鮮な気持ちで読めた。
卵は一緒でも目玉焼きあり、厚焼きあり、オムレツありで、料理次第でどうとでもなる、という見本のような短編集だった。
その味付けが素晴らしく、「法師蝉」の中で蝉の羽化を描いたシーンは特に秀逸だった。
蝉の殻の背が割れて……「停止しているかと思うほど動きはかすかだが、チューブから押し出される透明な軟膏のように体が上方にのびてゆき、」……ぞくぞくした。

こういう作家は令和でも現れるのだろうか。
淡々と描写しているようで、深々と人を物事をえぐっていく。
昭和という時代があったからこそ成せる業だったような気もする。

100点

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