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よしなしごとども 書きつくるなり
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吉田修一(朝日新聞出版)

 土木作業員の祐一は、出会い系サイトで佳乃という女性と知り合う。無口で小心な祐一に、佳乃は次第に嫌気がさす。あるとき待ち合わせ場所に、たまたま佳乃の知り合いの男性が居合わせ、彼女は祐一の目の前で彼の車に乗って走り去る。怒り心頭の祐一は、二人のあとを追い掛けるが……。

 頻繁に場面が切り替わり、それが物語に疾走感を与えていて、ページを繰る手を止めることができなかった。
 また、登場人物は皆リアリティがあって、特に佳乃の父親など既視感さえ覚えた。彼の悲しみは他人事とは思えず、もらい泣きしてしまった。
 それから物語の後半で祐一と出会う光代の存在感も大きかった。陳腐な言い方になってしまうが、優しさは時として罪深いものだ。

 本当の、本物の「悪人」は、この作品にはいない。ただ、普通の人間が、ちょっとしたきっかけやタイミングの悪さで悪事に手を染めてしまうことを、淡々と示唆しているのがこの作品なのだ。
90点
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吉田修一(文藝春秋社)

 大工の大輔は真美と、その子供の小麦と同棲していた。そのマンションには、大輔の義理の弟・光男も同居していた。仕事もせずに、日がな一日熱帯魚ばかり見ている光男。やがて彼は大輔の金を持ち逃げしてしまう。

 イマドキの若者を描いた小説はたくさんあるが、上滑りしていたり、現実感に乏しかったりするものが多い気がする。でもこの作品は、違う。若さゆえの衝動的な行動を、生々しく描き出している。
 百円ライターが、ある時はバケツに沈み、ある時は母親の手から渡され、最後にプールに沈む。誰にでも容易に想像できる「景色」の組み込み方がうまいと思った。
80点
吉田知子(中央公論社)

 短編集。8つの短編が収められている。
 『泳ぐ箪笥』が良かった。夫の盆栽を嫌い、こっそりガレージ整理に出していた照子。出せば出すだけ捌けていく盆栽。やがてガレージ整理はとんでもない事態へと向かう……。

 他の短編もそうなのだが、いつの間にか日常が非日常になっていく過程が、さらりと描かれている。「あれ?」と思ったときにはもう異界の入り口に立っているという寸法。
 だいたいカレージセールじゃないのか? タダだから「セール」じゃない? なんて疑問も置き去りにされたまま、家中のものが整理されてゆく。座っていた座布団まで取られ、ここまでくるとコントの世界。
 ぞっとして、ふふっと笑える、そんな作品が揃っている一冊。
70点
吉永達彦(角川書店)

 小学生の真理は大阪・古川のほとりに住んでいた。ある嵐の日に真理の家に亡霊が現れる。それは三年前に水死した、妹のマユミだった……。

 川の中に存在する異界での死闘が、とても生々しく描かれていて凄みがあった。現世に強烈な怨念を抱くマユミが、悪鬼のごとく振舞うさまは恐ろしくも悲しい。
 ひとつ難点を挙げるとするなら、水子やへその緒といった事柄にこだわり過ぎているように感じられたこと、か。
65点
吉野源三郎(岩波書店)

 中学一年生のコペル君の体験をとおして、人生いかに生きるべきか、モラルとは? 社会認識とは? 等々を問う作品。
 こういう本を良書というのだろう。分かりやすい、面白い、飽きさせない、そして(陳腐な言い方だが)為になる。

 誰もが中学生のときに体験するようなエピソードがたくさん出てくる。
 たとえば友人がリンチを受けているのを傍観してしまうシーン。コペル君の後悔が痛いほど伝わってくる。
 そこで彼の叔父は言うのだ、「どんなにつらいことでも、自分のしたことから生じた結果なら、男らしく耐え忍ぶ覚悟をしなくっちゃいけないんだよ」。責任転嫁ばかりする人間が増えている今、叔父さんの言葉が重く響く。

 それから、貧しい暮らしをしている友人・浦川君について、叔父さんは言う。「君が、浦川君のうちの貧乏だということに対して、微塵も侮る心持をもっていないいうことは、僕にはどんなにうれしいか知れない」。コペル君はたまたま恵まれた環境にいるが、浦川君のように「生産する人々」がいるからこそ、社会は成り立っている。彼らを敬いこそすれ、決して見下してはいけないと叔父さんは繰り返す。

 まだまだ紹介したい良い話があるのだが、きりがないのでこのへんで。とにかくこの題名でもって敬遠することなく……小難しい哲学書かと思い、私は手に取るまでに時間が掛かった……学生の方にも大人にも読んでいただきたい一冊である。
95点
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