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よしなしごとども 書きつくるなり
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川上弘美(朝日新聞出版)

「七夜物語」で本の世界を旅したさよと仄田くん。それから30年が経ち、さよの息子・絵(かい)と、仄田くんの娘・りらは同じ小学校に通っていた。
りらは個性的な子で学校にはあまり馴染めていない。絵はそんな彼女を少しはらはらしながら見守っている……。

七夜物語を読んでから14年。内容はふわっとしか覚えてないけど自分の感想文を読んだら何これ面白そう。
本作はたぶん前作よりも面白かった! 「80点」ってことはないもの。

なんたってりらに感情移入しちゃうよね。こんな表現がありました↓
たいがいの子はりらを「変わった子」認定し、そういう子に反感を持たない子はりらをスルーし、反感を持つ子はりらを積極的に疎外した。
どっちに転んでも友だちにはなれないわな。

りらはいじめっ子たちを冷静に観察する。りらを蛇に見立てて黒板に落書きする子たち。蛇は好きだからうれしい(と思うことにした)、という彼女。
そのかわし方が正しいかどうかは分からないけど、素敵ね。

ラストの数ページには驚いたけど、前作とつながっている今作、そして時は永遠につづく……という余韻のある展開でよかったです。
95点

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川上弘美(幻冬舎)

記憶というものがいっさいなかったわたしは、蔵医師に言われるがまま丹羽ハルカ(16歳)になることにした。そこから数ヵ月、数年、あるいは数十年おきに、わたしは性別も年齢も様々な人間になっていった……。

なんて面白くて興味深くて斬新な小説! カワカミさん、ありがとうってお礼が言いたくなるほどの。
こういうありえない話は違和感ありありになるのが普通だが、どこまでも自然に設定が受け入れられた。それどころか、こういう「某」って身近にいるかもしれないとさえ思った。
というか、誰しも「某」な部分があるのではないか。幼い頃の私、学生の、成人した、結婚した、母親になった私。そのときどきで出会った人たちは、私のことをどう評するだろうか。おとなしい、出しゃばりな、仕切り屋の、ノリがいい、変わった、控えめな、私。環境によってキャラクターが変わるほうだと自認しているので、様々な意見が出そうだ。
人間の多面性とか、そういう暗喩を含んでいるのかと思ったりもしたが、たぶん主題はそこではない。終盤の「ひかり」の章では、そこまでとは一線を画す展開が待っていた。ネタバレなので内容は書けないが、それこそが筆者が言いたいことだった気がした。字にすると陳腐だが「愛って何?」という話。

余談だが川上氏はひらがなの使い方が本当に秀逸。「……くちぶりで答えた」。これは絶対「口振り」ではないのだ。「目をみひらく」。これも「見開く」では決してない。
そんな細かい想いを(勝手に)考えながら読むのもまた一興。
100点

川上弘美(日本経済新聞出版社)

 同じ年、同じ日に生まれた留津とルツ。
 人生の数々の岐路で、道は果てしなく分かれてゆく。どんな学校か、就職先か、結婚相手は? はたまた独身なら?
 1966年から60年にわたる物語。

 2人の「るつ」が交互に語り手となって進む話は、やがて琉都、流津、瑠通、と広がりを見せる。まるで葉脈のように、分岐が分岐を呼ぶ。
 けれどとっ散らかった印象はなく、常に引きで物事を眺めているようなるつの性格ゆえか、粛々と時間は流れていく。

 周囲の人たち……自分の親、義理の親、友だち、恋人、同僚……との関わりを描いている部分はもちろん、東日本大震災のときの出来事がとても鮮やかに生々しく描かれていた。選び取った道でもそうでなくても、結局なるようにしかならない、そんな諦観がほの見えた。

 そしてこの作品の助演女優賞は、姑のタキ乃であろう。浪費家で息子に倹約生活を強いても何とも思わない強烈な性格。自分は絶対悪くないと信じて疑わない人、いるよねぇ。
95点

川上弘美(平凡社)

 エッセイ「東京日記」の第5弾。
 第5弾だって、飽きっぽい私が全部読んでいるってのがまずすごいやね。

 さて、毎回楽しみなのが「それ、私もあった!」という、川上氏との共通項探しである。
 今回もありました、ジムに行ったとき、下半身にタオルをまきつけ、おっぱいまるだしでのしのし歩く女性がいたそうな。
 私も全裸でドライヤー女性を見たところだったので驚いた。

 それから某月のタイトルにもなっていた「ジベルばら色」。
 正確には「ジベルばら色粃糠疹」という皮膚病の一種であるが、それが登場してきて驚いた。
 実際には川上氏ではなく、友だちが罹った話であったが、よそではあまり聞いたことがない病気だったので「!」となった。

 3年に一度くらい、このエッセイは発売されるのかな。次回も楽しみではある。
90点

川上弘美(小学館)

短編集。「儀式」が良かった。
とあるマンションに住む女性。毎日夕方に起きては仕事をする。彼女の仕事は、天罰を下すこと。

ほんの数ページの小品なので彼女の正体の描写はないが、神か、そのしもべ? といったところか。
正体は不明でも、その行為は、存在は、私の気分をスカッとさせてくれた。

「三」
 わたしは静かに唱えます。犯人の四十代女性には、これで、今週中にレベル三の天罰がくだることでしょう。

いい、すごくいい。
それから、世界中の魂の呼び声を聞く儀式。
応えはしない、ただ聞くだけだけれど、それで人間は身軽になるのだという。

「だったらいいな」という川上氏の願いがつまった一編のような気がした。
80点

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