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よしなしごとども 書きつくるなり
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村上春樹(新潮社)

高2の秋にぼくはきみと出会った。離れて暮らすきみと月に一度ほど逢瀬を重ねた。
2人でよく話し合ったのは、きみが言い出した、高い壁に囲まれた架空の街の話。
本当のきみはその街で暮らしていて、図書館で働いているという。
そんな言葉を残して、きみは忽然と姿を消してしまった……。

久々の村上節、久々の傍点である。何もかもが相変わらずすぎて懐かしかった。
この部分ながいな、つまらないな、と思い始めた瞬間、興味をそそられる事件が起きる、それもいつも通り。
そんな話はさて置き、主役の「ぼく」ではなく、脇役の人たちについて書きたいと思う。
まず図書館長の子易氏。何不自由なく生きてきた彼が、結婚後に立ち直れないほどの不幸に見舞われる。
そのあと彼は言う。混じり気のない愛を味わうと心の一部が焼き切れる、それは無上の至福であり、厄介な呪いでもある、と。
そんな相手に遭遇してみたいものである。

それから「ぼく」が通うカフェの女店主。
30代半ばのほっそりとした化粧の薄い女性。でしょうね、という外見。
ぽっちゃりとした、しかしモード系のファッションを着こなす女性、ではないよね。
そして彼女もまたワケありなのである。果たしてその設定の意味するところは? 私にはわからなかった。
70点

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村田沙耶香(朝日新聞出版)

小学生の結佳はごく普通の子だったが、習字教室に一緒に通う伊吹陽太にだけは特別な感情を抱いていた。
純粋で何も知らない伊吹をからかって遊ぶ結佳、時にはエスカレートしてキスをせがむようなことも。
中学生になった結佳は、スクールカーストでは下位に甘んじていた。
いっぽう相変わらずのほほんと学校生活を送っている伊吹は、女子にモテる男の子へと変貌していた……。

一言でいって分かりすぎる話であった。
小・中学生という微妙な年齢の心のゆらぎを、ここまで鮮烈に描いている物語はそうそうないだろう。
たとえば結佳は、昼休みにひとりで校庭を散歩する。
「こうしていると、教室で騒いでいる子たちは脇役で、自分が主人公であるような気がしてくる。誰かが、高いところで私を主人公にした物語を紡いでいるような気持ちだ。」
ああああああと手で顔を覆いたくなるような、こんな気持ち。不細工な自分を卑下しつつ、でも夢を見てしまう気持ち。分かる、からこそ心が痛む。

それから女子同士のくだらないけど絶対的な暗黙のルール。
カースト上位の子たちの気まぐれには上手く付き合い、ご機嫌を損ねないようにすること。
褒められたら、必ず褒め返すこと。相手の待っている褒め言葉を投げること。
そうやって女子たちは危うい関係を続けていく。
いろいろな人間が集まるはずの学校という場所で、どうしてこうも同じような組織が出来上がってしまうのか、心底不思議である。

やがて結佳は、カースト最下位の信子ちゃんを通して、ひとつの結論へとたどり着く。
本当の美しさとは何か。顔の美醜ではないとしたら、それは何なのか。
そこから彼女は、精神的に成長を遂げた伊吹を通して、さらに確かな価値観を得る。

結佳と伊吹が語り合うラストは少しの気持ち悪さと、大きな爽快感があった。

95点

村田喜代子(新潮社)

97歳、認知症の初音さんは老人ホームで暮らしている。娘である満州美、千里がホームを訪れては初音さんと面会する。
戦後、中国・天津から引き揚げてきた初音さんの意識は、どうやらそこにあるらしい。自由できらびやかだった天津。彼女は過去へと引き戻されて……。

文庫版の表紙絵が、この作品のすべてを表しているようだ。美しくて見入ってしまう。
その美しさと裏腹なのが初音さんの「今」である。
自分がどこにいるのかも分からず、娘のことも忘れ、ただ生きながらえる日々。認知症というのはなんて残酷なのだろう。
老いを認識せずに昔の楽しかった思い出に生きていて、ある意味しあわせ、という描き方をされているが、はたしてそうだろうか。
こんな一節がある。
リビングルームのテーブルのあちこちに、破れ昆布が磯へ打ち上げられて引っ掛かったように、年寄りたちの姿がある。
……そんなふうに思われて、シモの世話をされて、よだれかけをして食事を口まで運んでもらって。
そこまでして生きたくはない、と思うのは傲慢なのだろうか? と老いについて深く考えさせられる作品であった。
70点

村田沙耶香(新潮社)

小学5年の夏、奈月は一家そろって長野の祖父母のところへ行く。
そこには大好きないとこの由宇がいた。
奈月は魔法少女であること、由宇は宇宙人であることを打ち明け合って、2人だけで結婚式をする。
大人になった奈月は恋愛や生殖に興味が持てなかったが、同じような考えの智臣と出会い結婚する。
智臣が奈月の田舎を見てみたいと言い出し、久しぶりに親戚の家に向かうが……。

同じ著者の「コンビニ人間」の主人公も正常と異常のはざまにいるような女性であったが、奈月にも同じ臭いを感じた。
地球人にとって自分は異星人だから排除されかねない、でも何があっても生き延びると由宇と誓いあったから、死ぬわけにはいかない、奈月はそう考える。
小学生が思うならまだしも、大人になってもポハピピンポボピア星から来たと疑いもなく言えるのだから、かなりアレな人なのだろう。
アレな人がアレな智臣と出会ってしまい、狂気はさらに増大する。

奈月が小学生のときに起こす事件にも吐き気がしたが、終盤での奈月、由宇、智臣の行動は完全に常軌を逸していた。数ページ、読み飛ばすしかなかった。
ここまでグロを描く必要があるのか……ない、と私は思う。
20点

村田沙耶香(文藝春秋社)

幼いころから変わった子どもだった恵子。たとえば小学生のとき、けんかする男子を「止めて!」と同級生が叫んだら、恵子はスコップで片方の男子を殴った。止めればいい、という迷いのない単純な思考回路。
長じて大学生となった恵子はコンビニでバイトを始める。マニュアル通りにすればいい世界。彼女は初めて「正常な部品」になれたと安堵したのだが……。

読んでいて、とても心がざわざわした。はたから見たら恵子は明らかに異常なのだが、本人は何が異常なのかさっぱり分からず、相手の表情や言葉から「これは言ってはいけない」と学習するだけ。何らかの障碍者なのか? と疑問がふくらんでいった。
バイト店員のまま18年が過ぎて、次第に周囲の「ずっとコンビニ店員?」「ずっと彼氏もいなくて独身?」という疑問もふくらむ。恵子はどう答えを出すのだろう? と思ったが物語は意外な方向へ進む。
ネタバレなので詳しくは書けないが、そこからの生活もただ「正常であること」を求める虚しいものであった。ただし本人はまったく虚しさなど感じておらず、面倒なことになったな、ぐらいの感じなのがまた怖かった。

そう、恵子が怖かった。
こういう生きづらさを抱えている人は現実にもいそうだが、「あんまり邪魔だと思うと、小学校のときのように、相手をスコップで殴って止めてしまいたくなる」なんて言われたらやはり恐ろしい。

ラスト、恵子はあることに気付くが、それには少しほっとした。
今後きっと彼女は誰にも迷惑をかけない、もちろん犯罪者にもならない、その時そばでわめいていた男よりぜんぜん真っ当だと思った。
90点


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