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よしなしごとども 書きつくるなり
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山田詠美(中央公論新社)

離婚して幼い子ども2人を連れて新生活を始めた蓮音。風俗店で働いて懸命に子どもを育てていたが、次第にホストクラブにのめり込み、家に帰らなくなる。締め切ったマンションの部屋、子どもたちは真夏の暑さの中で意識を失ってゆく……。

物語は蓮音とその母親である琴音を中心にして語られる。
琴音の育った環境も最悪なものだった。父親は家族を暴力で支配していて、見境なく手を挙げるような人だった。外では大人しく地味な人、しかし突然狂ったように暴力を振るう父親。
そんな父親の亡き後、母親はある男の愛人となるがその男は琴音を、今度は性暴力で痛めつける。

次々に不幸がふってくる琴音のような人生。
その子どもである蓮音もまた琴音が突然家出した後、弟たちの面倒をみながら必死に生きる。かっこつけるばかりで頼りにならない父親に代わって。

忌み嫌っていたはずの親なのに、気付けば自分も育児放棄……いったいなぜ? 蓮音は自問自答する。
こんな一節がある。
やり方を知らないんだ、と思う。人に可愛く頼ったり、可憐にすがり付く方法が蓮音には、どうしても解らない。

思わずため息が漏れた。分かりすぎる。
蓮音の夫も義母も善人ではあったが、それゆえ彼女の心理が理解不能だったのだろう。ただ人格を否定せずに温かく包み込んで欲しい……彼女の願いはそれだけだったと思う。

非常に読んでいて苦しい一冊であったが、琴音、蓮音親子について羨ましい点がひとつあった。
病気の描写はなかったので、きっと身体だけは丈夫だったのだろう。
私が育った環境は彼女たちほど劣悪ではなかったが、自身の虚弱さが世界を暗くしていた。
(隙自語ですみません)
75点

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山内マリコ(幻冬舎)

 短編集。8つの作品が収められている。
 『やがて哀しき女の子』が良かった。
 元タレントのあかねと、友だちの南。20代も半ばを過ぎた彼女たちは婚活を始めるが……。

 この年頃の女性の「あるある」がいっぱい詰まっている作品である。まともな恋愛も出来ていないのに、早く結婚したいと焦る気持ち。無為に過ぎてゆく日々と、年を取ることへの恐怖。
 TSUTAYA、ZOZOTOWNなどの身近な単語をちりばめて、リアルにストーリーは進んでいく。

 他の作品も、特別な存在であるはずの私と、ありふれた日常に埋もれていく私、で揺れる女たちを描いていて、これまたリアル。

 それぞれにちょっとずつ登場する椎名という男性が、関わる女性によって違う人物像になるのも面白かった。クラスに1人はいそうな椎名クン、地方都市の象徴のよう。
70点

柳 広司(角川書店)

 昭和12年、陸軍内に極秘裏にスパイ養成学校が設立された。それにまつわる5つのエピソード。
 『ロビンソン』がよかった。
 ロンドンに潜入していたスパイ・伊沢は、敵国のスパイに拉致される。絶体絶命のピンチで伊沢がとった行動とは。

 スパイといえばマット・デイモン演じるボーンシリーズが思い浮かぶが、あのような派手さ、スピード感はこの本にはまったく無い。
 だが本物のスパイというのは、この作品にあるような活動をしているのかもしれない。そう思わせるリアリティーがあった。
 誰も殺さない、自殺もしない。透明な存在たれ。結城中佐(スパイ養成学校の発案者)の言葉こそがその真髄を表しているようだ。
80点

ワタシの一行
この連中を動かしているものは、結局のところ
――自分ならこの程度のことは出来なければならない。
という恐ろしいほどの自負心だけなのだ。(文庫本 P.31)

薬丸岳(講談社)

 13歳の少年三人によって、桧山の妻は殺された。が、少年法に守られ、犯人たちが罪に問われることはなかった。四年後、少年の一人が殺され桧山に嫌疑が掛かるが……。

 次から次へと事件が起き、読み出したら止まらなかった。めくるめく疾走感と隙の無さに唸った。物語の中に「殺人者」が多すぎな気もしたが、一つの罪がたくさんの悲嘆と憎悪を生み出すという構図は、すっと心に入ってきた。
 本書を読んでつくづく思ったのだが、少年犯罪に対する制度は改革が必要であろう。人の命を奪っておいて更生のための施設に送致? しかも被害者への謝罪の義務さえ無い。被害者からしたら神も仏も無いではないか。
 厳罰化しても犯罪自体は減らないかもしれない。だが被害者遺族の立ち直りの一助にはなり得ると思う。
85点
安井俊夫(メディアファクトリー)

 一級建築士でもある筆者が、10編のミステリー小説に登場する建物を解析、図面化した労作。
 森博嗣氏の『笑わない数学者』の検証が面白かった。
 天文台を住宅に改造したという「三ツ星館」。お椀を三つふせたようなこの館、資産価値は数十億だという。
 だが明らかに建築基準法違反! 画竜点睛を欠くとはこのことか。
 この作品に限らず、場所の特定、建築コストの設定(不便な場所なら経費がかさむ)、古い建物なら時代考証までしているところがさすがというか、考え抜かれていると思った。

※筆者である安井俊夫氏は、ネット上で長年お付き合いいただいている建築士さんです。
 それとは関係なく、楽しんで読むことが出来た一冊でした。
 ただ点数をつけるのはあまりにおこがましいので控えさせていただきます。
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