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よしなしごとども 書きつくるなり
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開高健(文藝春秋社)

 この作品は筆者の絶筆である。でも私が嫌いな終わり方(未完)ではなくて安堵した。
 三つの短編が収められているが、私が好きなのは「掌のなかの海」。酒にまつわるエピソードが抜群。いかにもおいしそうな「フィッシュンチップス」。床にまかれたオガ屑の匂い。研ぎたてのナイフの刃のようなマーティニ。このあたりの描写は手馴れていて、安定感がある。
 ラストのアクアマリンの話も、評価が分かれる所かもしれないが、私は好き。女性的な「宝石」というものについて、胸がすくほど男性的に描いていて、好き。
70点
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海堂尊(新潮社)

 大学病院に勤める産婦人科医・曾根崎理恵。彼女は大学のほかにも、小さなクリニックで妊婦たちの診察も行っていた。閉院間近のクリニックには、様々な事情を抱えた、五人の妊婦が通ってきていた……。

 産婦人科医が不足しているらしい、代理出産は認められていないらしい。その程度の知識は私にもあったが、この小説ではそれらの問題が、深く、濃く、描かれている。
 稀有な症例で患者を死なせた産科医が逮捕され、産科医療から多くの病院が撤退した。
 また、どうしても子どもが欲しい女性が、代理出産という方法を選んだとき、倫理的にどう考えたらいいのか。
 実際にあった事件をほうふつとさせるような事象を盛り込み、物語はスリリングに展開してゆく。

 とても面白く、興味深い作品ではあったが、妊娠中にこれを読むのはお勧めしない。胎児の奇形、難病、流産の可能性……ちょっと刺激が強すぎるであろう。
65点
加賀乙彦(中央公論新社)

 東京拘置所の医官であった筆者が綴ったドキュメンタリー。

 私はあとがきを最初に読むが、そこに「死刑廃止論」がぶちあげてあった。
 それで興ざめしつつ本文を読んだが、読了しても「なぜ、廃止?」という疑問は残ったままだった。
 死刑囚が監獄に入ってから改心しても、失われた命は戻ってはこないし、その命をかけがえのないものとして生きていた人の悲しみは癒されることはないだろう。
 冤罪という大問題はあろうが、それを除けば死刑が残酷だという筆者の意見には、私は賛成できない。
55点
角田光代(文藝春秋社)

 平凡な主婦である小夜子は、葵という同い年の女性社長の下で働くことになった。仕事は掃除の代行。小夜子は次第に仕事にやりがいを感じ始めるのだった。
 並行して語られるのは、葵の高校時代。ナナコという、一風変わった子と友達になった葵。ポジティブで人懐こくて、でも決して群れないナナコに葵は惹かれるが……。

 くだらない話だと思いながら、貪るように読んでしまった。物語の中のあれもこれも、自分が経験したことだからかもしれない。
 学生時代の、息が詰まるような友達関係。群れない人間に注がれる奇異の目。母となっても終わらないお友達ごっこ。
 葵とナナコのように、本当に気の合う友人が一人いれば充分なのである。何も恐れることはない……そう学生時代の自分に言ってやりたい、遅すぎるけど。

 この作品については、とても読みやすくて良かった。が、小夜子の設定があまりにも安易な気がした。
 仕事に無理解な夫。嫌味な姑。分かりやすいパート主婦像だが、工夫が無いなと思った。
75点
角田光代(新潮社)

 夏休みの始まった日。小学5年生のハルは、実の父親に誘拐され、一緒に旅することになった。かっこ悪くて、段取りも悪いおとうさんとの旅は、苦しくて楽しい旅だった……。

 とても感想が書きづらい。なぜなら解説者の重松清氏が、この作品の光る部分を、さらに磨きをかけて書いてしまっているからである。さすがは作家である。
 で、私が感じた印象をひとつだけ書くなら。
 きっとこの父親が実際にいたとしたら、ごく普通のおじさんなような気がする。でも子供の目から見るとイケてなくて、とても素直にはなれなくて、でも憎めなくて。それはありがちな話で、あまり心に残る話ではないと思った。
55点
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