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よしなしごとども 書きつくるなり
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塩田武士(講談社)

俊也が自宅で見つけたカセットテープには、子どもの声が入っていた。それは紛れもなく、ある大事件で使われた脅迫テープの声であった。声の主は幼いころの自分? 俊也の疑念は膨らんでゆき……。

言わずと知れたグリコ・森永事件。迷宮入りしてしまったその事件の真実に迫る本作。とてもリアリティーがあって、ノンフィクションかと思うほどである。事件の経過、犯人たちの行動、心情が微に入り細を穿つように描写されている。

本作の中でも発生から30年余りが経ち、時効を迎えているこの事件。それを俊也と、新聞記者の阿久津がおのおの追及してゆく。
自分が犯行に関わったかもしれないという俊也の恐怖感。何とか真実を突き止めたい阿久津の執念。それらが混じりあって、物語はどんどん熱を帯びていく。両者が代わるがわる語る構成がうまい。

この作品を真犯人も読んだだろうか。
ぜひとも感想が聞きたいものである。
90点

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重松清(新潮社)

 短編が連なってゆるやかな長編をかたちづくるお話(文庫版あとがきより)。

 物語の舞台は小学校高学年から中学にかけての学校。そこには鼻持ちならない男子が、優しくて気弱な女子が、八方美人ゆえに疲弊してゆく女子が、ライバルに勝てずに焦る男子が、いた。
 『ふらふら』を紹介しよう。クラスで孤立するのがこわくて、道化を演じる堀田芳美。しかしささいなきっかけで「はじかれ」てしまう。昨日まで、さっきまで友だちだと思っていた女子が、冷たい言葉を投げつける。
 その空気、雰囲気が痛いほどわかるから、私の胸も締め付けられる。

 どの話も何となく経験したような、あるいはいつか見たようなものが多い。その頃の自分の未熟さや自意識過剰っぷりが思い出されて、居てもたってもいられないような気持ちになった。
 そして今、この瞬間も学校で苦しんでいる子はたくさんいるだろう。学校だけがすべてじゃない、なんて言っても気休めにしか聞こえないだろう。そんな子に、この本を最後まで読んで欲しい、と(作者でもないくせに)痛切に願った。
 今日を乗り越えたら明日はくる。明日を乗り越えたらあさってが来る。そうしていつか「戦争」は終わる、はずだから。
85点
 

椎名誠(新潮社)

 最初に読んだ時は、心底驚いた、おもしろくて。軽妙でリズミカル。でも今となってはこういう文体にも慣れてしまい、もうごちそうさま、という感じさえする。……と、試合放棄は良くない。

 不機嫌で不親切なバスの運転手の話などは、普遍の面白さがある。
 それから私が感激したのは、シーナ氏もウニに眼がないという話(ウニ好きに悪い人間はいないのだ)。全国ウニ好き友の会々長(嘘)の私としては、シーナ氏にかなり親近感を持った。
70点
志賀直哉(角川書店)

 父親との長年に渡る不和の末に、やっとこさ仲直りできた息子の話。
 '78年に読んだ本。格別印象に残らない作品だったのだが、読み返してみたら、案外よかった。
 でも、父親と和解する以前の話は、やれ腹の底から腹が立っただの、やれこんなこと言われて、不愉快だっただの、そんな文ばかり。しかも生後間もない赤ちゃんが急死したりして、なんとも陰鬱な内容。しかしその後の、子供の誕生、和解成立のシーンなどは、なかなかの出来栄えだと思う(何様じゃ)。
 出産に立ち会う場面では、はじめは「醜い妻を見たくない」なんてほざいていたが、いざ生まれてみれば「醜いものは一つもなかった。……すべては美しかった」。
 ったく、たわけ者め。
65点
重松清(筑摩書房)

 昭和38年生まれの「お父さん」が娘に語ってきかせる等身大の昭和史。
 筆者も「お父さん」と同じ年齢。ということは、まさに重松氏の歴史を語ったのであろう。
 テレビはすでに居間にあり、新しいモノ、誰もが欲しくなるものを発信し続けていた時代。
 パパ・ママという呼称が一般的になり、子供からみた親は無条件に尊敬する対象ではなくなっていった時代。
 皆が中流意識を持つようになり、そこからはみ出た人々を思いやる余裕のなかった時代。
 筆者はそんなふうにこの時代を切り取った。

 私も同世代なので、けっこう興味深く読むことができた。が、結末がいけない、というかあまりにも当たり前の話になってしまっている。
 1960年代からこれまでを振り返って、ただ感傷に浸ってみたかっただけ? と思ってしまった。
55点
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