忍者ブログ
ADMINWRITE
よしなしごとども 書きつくるなり
[1]  [2]  [3
柳美里(河出書房新社)

昭和8年生まれの「私」は福島の海辺やときには北海道まで出稼ぎに行っていた。そして東京五輪の前年である昭和38年に、妻や子どもを残して東京へ出稼ぎに行く。活気あふれる東京、男は懸命に働くが……。

実母と同じ年生まれの主人公が必死に生きようとする姿に心うたれた。
ただ実直に生きているだけなのに貧しさから抜け出せず、家族にも次々に不幸が降りかかる。自身もやがて上野でホームレスとなる。
この作品を読むと、ホームレスが特殊な人だとは思えなくなる。コロナ禍の今は特に気付けばホームレス、という人がたくさんいそうである。

物語の根底には天皇制とは何なのか? という問いもある。
天皇家の誰かが上野周辺の施設へ来るとき、ホームレスたちは小屋を畳んで立ち退かなければならない。それは「山狩り」と呼ばれ、雨だろうが真冬だろうが貼り紙ひとつで彼らは排除される。
これは皇族かホームレスのどちらかが悪いのか? その答えは書かれていない。
同じ時代に同じ国に生まれても、人々の人生には天と地ほどの差が生まれ得る、という当たり前の事実に震えるばかりである。
80点

PR
柚木麻子(新潮社)

婚活サイトで知り合った男性3人を殺害した容疑で逮捕された、梶井真奈子。
彼女の取材を始めた記者である里佳。
面会するたび、梶井の言動に翻弄され、次第に我を忘れてゆく里佳に、友人や恋人は危機感を抱くが……。

実際に起きた首都圏連続不審死事件をベースにしていて、梶井真奈子とは木嶋佳苗のことである。
事件が明るみに出た当時、世間はなぜ美しくも若くもない彼女が、複数の男性を騙せたのかと疑問に思った。
本書にあるその答え(らしきもの)は、彼女の貪欲さだ。
食べたいものを食べ、したいことをする、それが自分を女神たらしめ男性を惹きつける。
その自信になぜか打ちのめされた。
世間の女性たちが必死になってダイエットや自分磨きをしているのは無駄なのか? と。

梶井の対極にあったのが里佳だ。
女性らしさを嫌い、キャリアを積んできた彼女にとって、梶井は脅威だった。
しかし里佳には梶井が持つことができなかった、友人である伶子との女性同士の深い絆があった。伶子の暴走に戸惑うこともあった里佳だが、根底にあるのは信頼感、2人の友情には胸が熱くなった。

初めて読んだ作家だったが、語尾の長音記号や「!」の多用が気になった。
時代かなー。
70点

夢野久作(角川書店)

 4つの中・短編が収められている。

 表題作の『少女地獄』。
 病院開業の前夜、臼杵医師のもとに姫草ユリ子と名乗る少女がやってくる。彼女は看護師として雇われ、その美貌、腕の確かさから皆の信頼を得る。がしかし、彼女には重大な秘密があった。それは病的なまでの虚言癖だった……。

 嘘を正当化するために、さらに嘘を重ねるユリ子。初めは彼女の言動に嫌悪しか感じなかったが、次第に彼女が哀れに思えてきた。
 必要のない嘘をついて自分の首を絞める彼女は、まるで自分の尾を飲み込む蛇のようである。悪循環の極みだ。

 ひとつ愉快だった点は、男性はみな彼女に騙されてしまった、ということ。対して、女性は多少疑いの目で彼女を見ていた。女は直感的に女の魔性に気付くのである。

80点

唯川恵(新潮社)

 これほど予想が的中する作品もめずらしい。読んでいるほうが恥ずかしい。
 途中、こういう描写がある。「女性雑誌のカウンセリングで、恋愛沙汰に疲れ果てた相談を読むことがある。」私もこの作品を読みながら、ずっとそう思っていた。三流女性雑誌の、くだらない恋愛相談話だね、これは。
 こういう本が好きだという方もいらっしゃるとは思うので、これ以上は差し控えるが、読んでいて疲れた、ある意味。
10点
柳美里(新潮社)

 劇作家である梁秀香。彼女の作品を韓国で上演したいという依頼があって、現地へと向かう秀香。そこで彼女は里花という女性と出会う。里花の顔の中には、一匹の魚が棲んでいるのだった。雑踏を歩けば、あまり良い意味ではないほうの注目を浴びてしまうような魚が。
 こんなに「読まなければ良かった」と思わせる本も珍しい。何も得るものがなく、ただただ暗いばかりの世界である。
 人間のいちばん醜い部分だけを選りすぐって、突きつけられているような気分に陥った。しかも一片のユーモアさえ無い。
 この作品でモデルとなった女性に訴訟を起こされ、改訂してまで出版したかった柳氏という人が恐ろしくなった。
10点
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 3 4
5 6 7 9 10 11
12 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
カテゴリー
フリーエリア
最新コメント
[05/09 まきまき]
[05/09 もか]
[05/08 まきまき]
[05/08 ぴーの]
[04/30 まきまき]
プロフィール
HN:
まきまき
性別:
女性
バーコード
ブログ内検索
P R
カウンター
アクセス解析

Designed by 湯月   Material by ウタノツバサ
Copyright c [ Back To The Past ] All Rights Reserved.

忍者ブログ [PR]