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よしなしごとども 書きつくるなり
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湊かなえ(双葉社)

20年後の自分から届いた手紙。父親を亡くしたばかりだった10歳の章子は半信半疑で手紙を読む。やがて中学生になった章子。頼りなかった母親は料理人の早坂と出会い、共にレストランを開店する。安堵したのも束の間、学校ではいじめが始まり、つらい日々を送る章子だったが……。

章子が未来の自分へ手紙を返信するかたちでストーリーは進んでいく。子どもっぽい内容であったのが、次第に運命を呪うような過酷なものへと変わっていく。そのあたりの変化が読ませる。
またエピソードごとに語り手、視点が変わるので飽きずに読めた。

親や周りの大人に絶望する子どもが何人も登場するこの作品。読んでいて非常に苦しかった。貧困、暴言、暴力。子どもの「未来」を奪って平気な大人たち。報いを受けろと強く思ってしまった。
あとひとつ、誰の何の話なのかがわかりづらい箇所がけっこうあった。「素敵な」恋の忘れ方なのか、「素敵な恋」の忘れ方なのか、判然としないと意味を取り違えそうではあった。
85点

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K
三木卓(講談社)

筆者の配偶者だったK(詩人・福井桂子)についての私小説。

最初に言おう、とても良かった、気に入った。
Kは気難しくて自分勝手で、おおいに大胆不敵で扱いにくい人だったようだ。
三木氏にとっても謎多き女性だったようで、「Kは別人であるので、その心のうちはわたしにはわからない」とはっきり書いている。
しかしわがまま放題のKを、あきらめのような、どこか楽しんでいるかのような筆致で、三木氏は描いている。か細いけれど尽きない、愛情を感じた。

さて、何がそんなに気に入ったのかというと、単純にKが気に入ったのだった。

結婚を言い出した筆者に対する返事が、
「他人てだめなの」「一人でいるのが、好きなの」。

詩の草稿を読んで軽く批評したら激怒して、
「詩のことなんか何もわかってないくせに。(略)ここの言葉の飛躍こそが生命なのよ!」。

極め付きは、東北地方からポツンと女子大に入学した当初を回想して言った言葉。
「東京出身者は、名門の女子高なんかからは、かたまりになって入ってくるでしょう。だからもう入学式の日にはグループが出来てしまっていて、(略)ちょっと、いやな感じだった」。
1950年代と現代と、女性というものの変化の無さに驚くと同時にKに同情してしまった。
その後も友人らしい友人もできず、辛かったらしい。
しかし詩人としての才能はあったわけで、孤独のなかにも心の支えがあるKがうらやましくもあった。

以前、太宰治の妻が書いた本も、とても面白く読んだが、(男女こそ逆転しているものの)破滅的な芸術家と支える人、という組み合わせに心惹かれるのかもしれない。
100点

三島由紀夫(筑摩書房)

自殺に失敗した羽仁男は、新聞に「命売ります」と広告を打つ。依頼者は次々に現れるが、羽仁男は死にたいのに死ねない。次第に彼の心にも変化が……。

チャラ男の主人公がだんだんシリアスになっていく過程が面白かった。
死ぬことさえもふわっと捉えていたのに、その淵をのぞいた途端「生」にしがみつこうとする羽仁男くん。
あるあるですね。
生きていくってーのは何かとバタバタしてて、格好悪いもんなんだよなぁと、主人公と一緒にしみじみ思いました。

これ、とっくに読了してまして、思い出しながら感想を書きました。
三島っぽくない作品だそうで、連載も「週刊プレイボーイ」にしていたんだとか。
でも軽さの中に絶望がみえかくれして、一周して三島っぽいなと思いました。
75点


光野桃(文藝春秋)

 装い、なかでもベーシックなものについて語られたエッセイ。

 はじめの数ページに、写真付きでベーシックアイテムが載っている。白シャツ、傘、トレンチコートなど。定番っていいな、と素直に思わせてくれるすてきな写真であった。つかみはOK、本文にも参考になる話がたくさんあった。
 黒い服ばかり選んでしまう人は、全身を黒以外のワントーンでまとめてみるところから始めよう、とか。
 香水を流行で買うなんてもってのほか、香水は肌の香りそのものなのだから、とか。
 外見とは思いやりである、自分のことを瞬時に相手に分かってもらうために、自分らしい外見を作ろう、とか。
 いざ実践するとなると難しいかもしれない。が、頭の片隅に置いておいても良さそうではある。
75点

ワタシの一行
「やっと見つけた似合う服は、捜し求めていた親友みたいな暖かい存在だ」(文庫 P.83)


三崎亜記(集英社)

 ある日、地元の広報紙に掲載された「となり町との戦争のお知らせ」。「僕」は理解も納得もできぬまま、敵の偵察業務をすることを命じられる。
 ただ、戦争とは言っても、戦車が街を行きかうわけでなし、銃声が響くわけでもない。それなのに、広報紙には「戦死者」の数だけが載っている……。

 町が、ひとつの政策として戦争を遂行する、という不気味な設定が効いている。そこには個人の思いが入り込む余地はないし、すべては、人の死さえ事務的に処理されていく。
 その静けさ、容赦のなさがとても恐ろしかった。
 全体的には気に入ったが、香西さんとの恋愛じみた話はいただけなかった。
 彼女の代わりに、職務と自己の間で揺れる、繊細な男性を登場させたほうが、よりストーリーが引き締まったのではないだろうか。
70点
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