アンソニー・ドーア(新潮社)
八つの短編が収められている。
それぞれが主人公の年齢も違うし、物語の舞台も違うし、作品から受ける印象も違う。だが、いずれも根幹を成すテーマは、大自然に対するあこがれと恐怖である。
『たくさんのチャンス』。
14歳のドロテアは海沿いのメイン州に引っ越してくる。そこで釣りをする少年と出会い、彼から釣りを教えてもらう。だが母親に会うことを禁止され……。
ドロテアが次第にフライフィッシングの腕を上げてゆく様子、彼女が過ごす海辺の景色、がいきいきと描かれている。夕日が沈む瞬間、彼女が水面にフライを落とす。その奇跡のような一瞬。短いセンテンスに自然の美しさがみなぎる。
『7月4日』。
スポーツフィッシング愛好家のイギリス人たちと、元実業家のアメリカ人たちが釣り対決をすることになる。苦戦を強いられるアメリカチームの言動が、笑わせてくれる。
80点
八つの短編が収められている。
それぞれが主人公の年齢も違うし、物語の舞台も違うし、作品から受ける印象も違う。だが、いずれも根幹を成すテーマは、大自然に対するあこがれと恐怖である。
『たくさんのチャンス』。
14歳のドロテアは海沿いのメイン州に引っ越してくる。そこで釣りをする少年と出会い、彼から釣りを教えてもらう。だが母親に会うことを禁止され……。
ドロテアが次第にフライフィッシングの腕を上げてゆく様子、彼女が過ごす海辺の景色、がいきいきと描かれている。夕日が沈む瞬間、彼女が水面にフライを落とす。その奇跡のような一瞬。短いセンテンスに自然の美しさがみなぎる。
『7月4日』。
スポーツフィッシング愛好家のイギリス人たちと、元実業家のアメリカ人たちが釣り対決をすることになる。苦戦を強いられるアメリカチームの言動が、笑わせてくれる。
80点
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ジャン=ジャック・フィシュテル(東京創元社)
主人公は、出版社社長。彼が若かりし頃、とある娘と親密になるも、娘は何者かによって殺害されてしまう。娘の死の原因は、彼が面倒をみてやっていた作家の、下劣な行為にあった。それを知った彼は、作家を罠にはめる。
前半が、なんとも退屈で参った。まわりくどい文章で、さっぱり頭に入ってこない。でも主人公が復讐の幕を切って落としてからは、がぜん面白くなった。その方法、タイミング……おぬしも悪よのぉ、と思わずにやり。
本が人を殺すなんて、斬新で、ぞくぞくした。
70点
主人公は、出版社社長。彼が若かりし頃、とある娘と親密になるも、娘は何者かによって殺害されてしまう。娘の死の原因は、彼が面倒をみてやっていた作家の、下劣な行為にあった。それを知った彼は、作家を罠にはめる。
前半が、なんとも退屈で参った。まわりくどい文章で、さっぱり頭に入ってこない。でも主人公が復讐の幕を切って落としてからは、がぜん面白くなった。その方法、タイミング……おぬしも悪よのぉ、と思わずにやり。
本が人を殺すなんて、斬新で、ぞくぞくした。
70点
ジョン・ダニング(早川書房)
「本好きにはたまらない一冊」という宣伝文句に惹かれて読んだが、これは正しくは「古本好きには……」でしょう。私なんかにはわからない世界。なにしろ「莫大な価値のある古本」を主軸に物語が展開していくのだから。
ま、それでもストーリー自体は充分読み応えがあったけれど。
加えて登場人物もなかなか魅力的。ねんごろになった主人公の男女が、車の中でかわすセリフ。「……はっきりいうけど、あなたのその態度、あたし嫌いよ」「これが地だよ」。
クールである。そういう点でも楽しめた一冊だった。
80点
「本好きにはたまらない一冊」という宣伝文句に惹かれて読んだが、これは正しくは「古本好きには……」でしょう。私なんかにはわからない世界。なにしろ「莫大な価値のある古本」を主軸に物語が展開していくのだから。
ま、それでもストーリー自体は充分読み応えがあったけれど。
加えて登場人物もなかなか魅力的。ねんごろになった主人公の男女が、車の中でかわすセリフ。「……はっきりいうけど、あなたのその態度、あたし嫌いよ」「これが地だよ」。
クールである。そういう点でも楽しめた一冊だった。
80点
パトリシア・ハイスミス(早川書房)
タイトルのとおり、十一の短編が収められている。『すっぽん』が印象に残った。
十一歳のヴィクターは、自分の気持ちを理解しようともしない、高圧的な母親に辟易していた。あるとき母親が食材として生きたすっぽんを買ってくる。ヴィクターはすっぽんを殺さないよう懇願するが……。
子供の心が壊れる瞬間を、とても鮮やかに描き出している。最近恐ろしい事件がいろいろ起きているが、その引き金になる事柄というのは案外こんなことなのかもしれない。
その他、子守として雇った女の狂気を描いた『ヒロイン』、巨大かたつむりの探索に魅入られた男の悲劇を描いた『クレイヴァリング教授の新発見』などが面白かった。
80点
タイトルのとおり、十一の短編が収められている。『すっぽん』が印象に残った。
十一歳のヴィクターは、自分の気持ちを理解しようともしない、高圧的な母親に辟易していた。あるとき母親が食材として生きたすっぽんを買ってくる。ヴィクターはすっぽんを殺さないよう懇願するが……。
子供の心が壊れる瞬間を、とても鮮やかに描き出している。最近恐ろしい事件がいろいろ起きているが、その引き金になる事柄というのは案外こんなことなのかもしれない。
その他、子守として雇った女の狂気を描いた『ヒロイン』、巨大かたつむりの探索に魅入られた男の悲劇を描いた『クレイヴァリング教授の新発見』などが面白かった。
80点
スコット・スミス(扶桑社)
はじめはまさにシンプルなプランだった。偶然手に入れた大金を三人の男は自分たちのものにするべくプランを立てた。でもそれは少しづつ狂い始めてやがて……。
終わり近く、コンビニでの事件が印象的だった。ラジオから流れる伝道放送、ワインと混ざる血。落ちるところまで落ちた人間は恐ろしい。
85点
はじめはまさにシンプルなプランだった。偶然手に入れた大金を三人の男は自分たちのものにするべくプランを立てた。でもそれは少しづつ狂い始めてやがて……。
終わり近く、コンビニでの事件が印象的だった。ラジオから流れる伝道放送、ワインと混ざる血。落ちるところまで落ちた人間は恐ろしい。
85点