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よしなしごとども 書きつくるなり
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川上弘美(新潮社)

 東京の、小さな商店街。そこをゆきかう人々を描いた連作短編小説集。
 それぞれの話が少しずつリンクしていて、ひとつの事件が違った視点で語られるのが興味を惹いた。
 特に、最後の『ゆるく巻くかたつむりの殻』は、幾つかの話の中で語られていた女性が、自らの思いを独白するという形になっており、まさに大団円、物語がぎゅっと収束する感じがとても心地よかった。

 ラストで彼女が死生観を語る部分は、圧巻だった。連綿と続く人と人とのつながり、記憶のつながりが、自分をずっと生かしてゆくのだという。
 死してなお漠々と自分の「かけら」が在り続ける……なんて空恐ろしい、しかし同時になんて甘美な考え方であろうか。
95点
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川上弘美(集英社)

 結婚して七年ののゆりは、夫である卓哉に愛人がいることを知る。卓哉は離婚をほのめかすが、のゆりにはその決心がつかない。ずるずると時だけが過ぎてゆくのだった……。

 のゆりというのは、どこか鈍くて、そのことに自身甘えているようなところがあって、でも本人はきっと「甘えてなんかいません。」と断言するであろう、そんな女性なのである。こういう主人公は読んでいてつらい。イライラする。
 極め付けは、卓哉にプライドはないのかと詰め寄られるシーンだ。そのあとののゆりの行動はまったく理解できないし、もっといえば気持ち悪い。
 終盤で、のゆりは唐突に離婚を決意する。が、それも「自分が離婚を切り出せば逆に卓哉は別れられないに違いない」と踏んでの行動のような気もする。天然ボケならぬ天然計算女……それがのゆりの正体だと思った。
 だが、そこはそれ川上作品、興味をそそるエピソードが巧みに盛り込まれ、主人公に嫌気が差しつつも最後まで読みきることができた。
75点
川上弘美(平凡社)

 エッセイ集。「卵一個ぶんのお祝い。」の続編。
 やっぱり、いちいち、隅ずみまで面白い。いくらでもこの日記を続けてライフワークとして欲しい、ほどである。

 本屋さんでじっくり本のタイトルを眺めていたら、目の前がぐらぐらしてきた、本の背表紙に酔ったらしい、とか。
 電車の中で桜餅の匂いがした、さらに水たまりの匂いもした、春先はときどき、こういう「匂う日」がある、とか。
 あぁ、あるある、と思わず頷いてしまうことがたくさん書かれていて、うれしくて、私も踊りだしたくなってしまった。というのは嘘だけど。
100点
川上弘美(朝日新聞社)

 書評集。書評委員として新聞紙上に書いたものと、文庫などの解説文。
 参った。読みたい本が次から次へと出てきて。
 「好きな人のすすめる本が必ずしも面白いとは限らない」
 という私の中の定説が、一瞬ゆらいで、ゆらいだ末にある本などは即座に注文までしてしまった。

 読売新聞の書評もいつも楽しみにしていたが、こうして一冊にまとまったものを読むことにより、その魅力を再確認した。気取らない文章で、謙虚に、ときには熱く川上氏は書評を書かれている。その生真面目さに打たれた。
 ただ、この本はひたすら「褒めている」書評集なので、川上氏の貶し言葉もちょっと読みたい気もした。
75点
川上弘美(文藝春秋社)

 京(けい)の夫である礼(れい)は、突然失踪してしまった。彼の日記には「真鶴」の文字があった。
 彼を追うように、何かに導かれるように、たびたび真鶴を訪れる京。真鶴で彼女は、現実と非現実の狭間で揺れ動く……。

 「近い」「遠い」という表現が印象的だった。京はいつも距離を測っている。
 礼は遠いけど近い。恋人の青茲は、遠いというほどではないが近くない。娘の百(もも)は近かったのに、遠ざっていく。
 自分では決められない距離感にもがく京の苦悩が胸に迫る。
 「ついてくるもの」という幽霊? の存在は、私の気に染まらなかった。もしや京は正気を失っているのでは? という疑念がわいて仕方がなかった。
80点
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