荻原浩(双葉社)
秀吉は自殺するつもりだった。三十八にもなって、金もなく、仕事も失いかけ、あるのは借金と前科。
そんな彼の前に、一人の少年が現れた。彼は天啓でも得たかのように少年を誘拐してしまう。その少年がヤクザの一人息子だとも知らずに。
出だしからかなり面白かった。秀吉が飛び降り自殺をしようとする場面。靴を脱いで手すりまで行き、また戻り、靴下を脱ぐ。足がとんでもなく臭かったから。これには笑った。
ヤクザやチャイニーズマフィアとの追いかけっこは、ちょっと出来すぎ感はあるが、テンポがよくすいすい読むことができた。
ラストも温かみがあって、良い締めだった。
90点
秀吉は自殺するつもりだった。三十八にもなって、金もなく、仕事も失いかけ、あるのは借金と前科。
そんな彼の前に、一人の少年が現れた。彼は天啓でも得たかのように少年を誘拐してしまう。その少年がヤクザの一人息子だとも知らずに。
出だしからかなり面白かった。秀吉が飛び降り自殺をしようとする場面。靴を脱いで手すりまで行き、また戻り、靴下を脱ぐ。足がとんでもなく臭かったから。これには笑った。
ヤクザやチャイニーズマフィアとの追いかけっこは、ちょっと出来すぎ感はあるが、テンポがよくすいすい読むことができた。
ラストも温かみがあって、良い締めだった。
90点
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丸谷才一(文藝春秋社)
三つの短編が収められている。
表題作より『鈍感な青年』のほうが読みやすかった。
とある図書館に通う、大学生の男と女。二人はやがて親しくなり、男性は女性を部屋へと誘う。冗談でかわそうとする彼女だったが……。
二人のやりとりがとても微笑ましい。
危険はないかと尋ねる女性に「それはやはり、ある」とはにかみながら答える男性。
拒絶したり、取り入ったり、落胆したり、舞い上がったり。部屋へたどり着くまでの二人の揺れ動く感情が、短い会話の中にきっちりと描かれている。
ただ、ベッドでの描写がかなり生々しくて……特に匂いの描写……そこに居合わせてその匂いを嗅いだような気分になってしまった。
80点
三つの短編が収められている。
表題作より『鈍感な青年』のほうが読みやすかった。
とある図書館に通う、大学生の男と女。二人はやがて親しくなり、男性は女性を部屋へと誘う。冗談でかわそうとする彼女だったが……。
二人のやりとりがとても微笑ましい。
危険はないかと尋ねる女性に「それはやはり、ある」とはにかみながら答える男性。
拒絶したり、取り入ったり、落胆したり、舞い上がったり。部屋へたどり着くまでの二人の揺れ動く感情が、短い会話の中にきっちりと描かれている。
ただ、ベッドでの描写がかなり生々しくて……特に匂いの描写……そこに居合わせてその匂いを嗅いだような気分になってしまった。
80点
横山秀夫(文藝春秋社)
短編集。
表題作の「動機」より「逆転の夏」が良かった。
殺人罪の刑期を終えて社会復帰した山本は、見知らぬ男から殺人を依頼される。初めは聞き流していたが、相手の男が勝手に銀行口座に金を振り込んできて、彼は次第に迷いだす。成功報酬は五千万円。彼は求めに応じるのか。
前科のある人間の不安や焦燥、憤りがとても分かりやすく描かれている。終盤のどんでん返しも効いているし、救いのあるラストも良い。
80点
短編集。
表題作の「動機」より「逆転の夏」が良かった。
殺人罪の刑期を終えて社会復帰した山本は、見知らぬ男から殺人を依頼される。初めは聞き流していたが、相手の男が勝手に銀行口座に金を振り込んできて、彼は次第に迷いだす。成功報酬は五千万円。彼は求めに応じるのか。
前科のある人間の不安や焦燥、憤りがとても分かりやすく描かれている。終盤のどんでん返しも効いているし、救いのあるラストも良い。
80点
三浦綾子(新潮社)
主人公の男が乗っていた汽車がブレーキの故障で制御不能に陥る。彼は自らの身体で汽車を止めようと決意する。
実話に基づく小説らしい。その事実に、さらに感動を深めた。
主人公はクリスチャンなのだが、半端ではない信仰心を持っている。いつも質素に暮らし、本物の博愛主義者。世にはびこるエセ宗教家も、この小説を読んで、顔を洗って出なおして来いと言いたくなる。
私はばりばりの無宗教だが、これ読むとキリスト教だけは信じてもいいような気がしてくる。主人公の生き方は尊敬に値する。
80点
主人公の男が乗っていた汽車がブレーキの故障で制御不能に陥る。彼は自らの身体で汽車を止めようと決意する。
実話に基づく小説らしい。その事実に、さらに感動を深めた。
主人公はクリスチャンなのだが、半端ではない信仰心を持っている。いつも質素に暮らし、本物の博愛主義者。世にはびこるエセ宗教家も、この小説を読んで、顔を洗って出なおして来いと言いたくなる。
私はばりばりの無宗教だが、これ読むとキリスト教だけは信じてもいいような気がしてくる。主人公の生き方は尊敬に値する。
80点
横山秀夫(講談社)
人望のある現職の警部が、アルツハイマーに侵された妻を扼殺した。彼は自首したが、犯行から二日間の行動をひた隠しに隠す。全てを語ろうとしない「半落ち」状態に、周囲は首をかしげる。彼の秘密とは。
これは素晴らしい。まず、余計な風景描写がないところが気に入った。
事件を取りまく六人の男たちがストーリーを繋いでゆくのだが、構成には無理がなく、しかもラストに向かって一筋の流れを作っていて、その巧みさに息をのんだ。
「空白の二日間」の謎解きは、予想が付く答えではあったが、それでも涙なしには読み進むことができなかった。
殺した、殺されたの血なまぐさいミステリーに飽き飽きしてるかたにおすすめしたい、極上の一品である。
95点
人望のある現職の警部が、アルツハイマーに侵された妻を扼殺した。彼は自首したが、犯行から二日間の行動をひた隠しに隠す。全てを語ろうとしない「半落ち」状態に、周囲は首をかしげる。彼の秘密とは。
これは素晴らしい。まず、余計な風景描写がないところが気に入った。
事件を取りまく六人の男たちがストーリーを繋いでゆくのだが、構成には無理がなく、しかもラストに向かって一筋の流れを作っていて、その巧みさに息をのんだ。
「空白の二日間」の謎解きは、予想が付く答えではあったが、それでも涙なしには読み進むことができなかった。
殺した、殺されたの血なまぐさいミステリーに飽き飽きしてるかたにおすすめしたい、極上の一品である。
95点