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よしなしごとども 書きつくるなり
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クリスチアナ・ブランド(早川書房)

 イタリアの風光明媚な孤島にやってきた旅行者たち。バカンスを楽しむはずが、一行のなかのある女性が殺害されてしまい、全員に嫌疑が掛かる。ツアー客の一人だったコックリル警部は調査に乗り出すが……。

 ツアー客たちの描写がまず面白かった。魅力的な新進女流作家。陽気に場を盛り上げる男性デザイナー。片腕を失った失意の元ピアニスト、などなど。みな腹にいちもつありそうで、誰が犯人でも不思議ではないと思わされた。
 殺人のトリックに関しては賛否あるようだが、私はまんまと騙されたので個人的には「○」。
 ただ、犯人の描き方には疑問が残った。警部は「(犯人には)悪質の素地があったのです」と述べているが、そこまでの悪人だという描写が事件の前には無かった気がする。むしろ別な人物の悪人っぷりをしつこく描いていたのは、ミスリードにしてもズルイと思った。
80点
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ジョナサン・キャロル(東京創元社)

 短編集。表題作もいいが『おやおや町』が面白かった。
 シルヴァー夫妻のところに、新しい掃除婦・ビーニィがやってきた。彼女は掃除の天才だった。地下室や車庫で、彼女は忘れ去られていたいろいろな物を見付けてきては、夫妻に聞くのだった。「これは?(どう処分しましょうか)」。
 初めは面白がっていた夫妻だが、ビーニィが「あるはずのない物」を差し出してきたとき、主人のスコットはある疑念を抱く……。
 ビーニィがその正体を明かしてからの展開が凄まじい。彼女はスコットに、彼の子供たちの「現実」を見せ付ける。見るに耐えないような現実を。スコットの絶望は察するに余りある。
 さらにラストで明かされる、驚愕の事実。「だから今、世界はこうなのか」と、思わず納得しそうになった。

 余談だが。
 この作品集、翻訳がどうも気に入らなかった。「……写ってた」「……冷めてった」といった「い」抜き言葉が目に付いて仕方がなかった。
80点
岡崎照男・訳(立風書房)

 サモア人の酋長であるツイアビの演説集。「パパラギ」とは白人のこと。そのパパラギが、いかに愚かで貧しい存在かを熱く、しかし静かに語っている。

 思わず微笑してしまう表現も。「……この皮で、パパラギは、ちょうど足がはいるくらいの、ふちの高い小さなカヌーを作る。一つのカヌーを右足に……」。靴のことである。
 しかし、笑っていられない話のほうが断然多い。たとえば、気持ちの良い天気の日に「あぁ素晴らしい!太陽が輝いている」と思ったりする。でもそれは変だ、と彼は言う。何も考えず、手足を自由に伸ばして美しい空気を楽しめば良い、と。いちいち考えることはある種「病気」だと。

 ここまで文明が進んだ現代、はたしてこの文明の方向性は正当であるのか、もう誰にも判断はできないだろう。でも人間はあらゆる意味において「過剰」だと思う。いつか誰かの逆鱗に触れて初期化されてしまいそうで怖い。
85点
J・K・ローリング(静山社)

 このての物語って、読むのに結構エネルギーがいると思う。すべては架空の話。魔法も魔法使いの学校もクィディッチの試合も。想像力全開で読まなくてはならず、これは映像になったほうが楽かな、とも思ったりする。
 主人公が最初はとても惨めな状況にあって、でも本当は他を圧倒する力を持っていて、最後には……という定石どおりの物語ではあるが、つい引き込まれて読んじまいました。
85点
ジャック・ロンドン(スイッチ・パブリッシング)

 短編集。九つの短編が収められている。
 表題作の『火を熾す』。氷点下六十度近い極寒のなか、男と一匹の犬は野営地を目指して歩いていた。容赦の無い寒さが彼らを襲う。湧き水で濡らしてしまった足を温めようと男は火を熾すが……。

  刻一刻と身体が凍り付いていく恐怖を、筆者はゆっくりと存分に味わわせてくれる。初めは余裕を持っていた男が、次第に死の影に怯えるようになり、最後に絶望するさまは実にリアリティーがあった。
  男に同行する犬が、ストーリーに厚みを与えている。基本的に命令には従うのだが「この寒さは危険だ」という原始からの記憶が犬を立ち止まらせる。その獣たる姿、息遣いを筆者は鮮明に描き出してくれている。
85点
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