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愛の領分

藤田宜永(文藝春秋社)

 仕立て屋の主人、淳蔵。彼は昔、友人昌平の妻だった美保子に思いを寄せるも、彼女に裏切られる。
 二十数年ぶりに昌平が淳蔵を訪ねてやってくる。美保子は重い病に侵されているという。

 なんて平凡な、特徴のない文章であろうか。だが、引っ掛かりが無い分じわじわと心に染み入って、読了したときには上質な作品に触れたときに感じる心地よさに包まれた。
 ストーリーの中に数々の花が登場する。桜・レンギョウ・ヒトリシズカ……移ろいゆく花たちが彩りを添えている。
80点
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少年と少女のポルカ

藤野千夜(講談社)

 高校生のトシヒコはホモで、同級生のリョウに密かに好意を寄せている。一方ヤマダもホモで、彼はホルモン注射を打ち、学校にもスカートをはいて来たりする。

 私は同性愛には全く興味がないのだが、そういう嗜好を排斥する気はない。ただ、ヤマダよりはトシヒコのほうが好ましいとは思う。
 もう一編の『午後の時間割』のほうがリアリティがあった。が、主人公が気持ちだけ六十四歳になるという設定が企画倒れで、活かされてない。
60点

ダックスフントのワープ

藤原伊織(文藝春秋社)

 四つの作品が収められている。
 表題作『ダックスフントのワープ』。
 大学生である「僕」は、十歳になるマリの家庭教師を引き受けることになる。といっても勉強を教えるわけではなく、作り話をしゃべるだけ。「僕」はダックスフントの冒険譚を彼女に語ってきかせるが……。

 解説にもあったが、村上春樹の作風にかなり似ていると私も思った。シニカルで気取った雰囲気の主人公のセリフが特に。それから本編に負けるとも劣らない面白さを持つ挿話も。
 まぁそんな比較はどうでも良いのだが。

 「僕」というのは、何てタチの悪い人間なのだろう。訳知り顔で物事を分析し、そのうえいつも傍観者でいようとする。まったくいけ好かない。
 ラストの後味の悪さもまた格別だ。許されざる未必の故意だと思った。
75点

古井由吉(新潮社)

 連作短編集。
 その最後に収録されているのは『始まり』という一編。
 母親を亡くした男は、納骨のために出向いた寺である女性に会う。彼女は、男の母親の入院先で会ったことのある人だった。聞けば彼女の父親も亡くなったのだという……。

 とても難しい短編集であった。唯一意味が読み取れた思えたのは、この作品だけ。
 他のは過去と現在が入り乱れ、ずいぶん奇怪な話だと訝れば夢の話、加えて生々しい濡れ場があったりで、読んでいて途方に暮れてしまった。
 『始まり』も読み辛かったが、女性の半生が順を追って語られているので、何とか理解できた。
 病に侵されて次第に狂気をはらんでいく父親を、粛々と見守る娘。底知れぬ暗い穴を覗き込んでしまったような、胸騒ぎを覚える一編であった。
50点

ベルカ、吠えないのか?

古川日出男(文藝春秋社)

 1943年、アリューシャン列島の中の一つの島に、四頭の軍用犬が放置される。彼らと、その子孫にあたる犬たちは、幾多の戦争、抗争に身を投じざるを得なかった……。

 著者の本を読むのは二冊目だが、この人はこういうふうに文章を書きたい人なのだな、とやっと理解した。こういうふうとはどういうふうかと言うと、思いついたまんま、だ。
 ときに視点はブレて、言葉は暴走する。そんな細かいことは気にしない、と思える読者ならいいのかもしれないが、私には無理だ。
 ストーリーもどんどん登場人物(犬物?)が増えて拡散していくタイプの話で、それも苦手とするところなので、なおさら受け容れ難かった。
50点

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