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よしなしごとども 書きつくるなり
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谷崎潤一郎(新潮社)

 働きもせずにのらくらと毎日猫ばかり可愛がる庄造。彼の前妻の品子が、庄造の猫を引き取りたいと言い出し、後釜の福子にも責められて、ついに猫を手放すが……。

 たった一匹の猫に、庄造も品子も福子も翻弄される。はたから見ると滑稽この上ないのだが、当人は至ってクソまじめ。そこにこの作品の妙味がある。
 庄造がこそこそと猫の様子を見に行くラストは、あまりのばかばかしさに脱力したが、庄造の刹那主義を際立たせてもいる。
80点
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種村季弘(筑摩書房)

 ドイツ文学者・評論家である種村季弘氏の最後のエッセイ集。
 多種多様な話が収められている。長くて退屈な話もあったが、切れ味鋭い短い話もたくさんあった。

 たとえば「顔文一致」。平岡正明氏(評論家)が「レコードと違って本の表紙には何故著者の写真がデザインしてないのか。物書きには顔に自信があるやつがいないから」と書いたという。ただし例外がいる、自分と種村氏。自著のカヴァーに自影を載せている。顔にも文章にも自信がある、これを顔文一致という。これを聞いた種村氏、舞い上がるほど喜んだらしい。
 こんな茶目っ気のある軽い話は、読んでいてとても愉快であった。
65点
田村隆一(思潮社)

 新聞で紹介されていたので思わず手を出してしまったが、私には抽象的な「詩」を理解できる能力は、残念ながら無いらしい。
 というわけで併録されているエッセイについて書こうと思う。
 歯医者が怖くて行けない、という話。もし戦時中に敵につかまり、あの治療器具で拷問にかけられたらぼくはみんな喋ってしまいそうだ、と。
 自分の不甲斐なさをあっさり認めていて苦笑してしまった。

 夫婦で飛行機に乗ったときのこと。
 奥様いわく「(千歳から東京まで)たった一時間。……なんて日本って小さいんでしょ。よくアメリカなんかと戦争したもんだわ」。
 話の飛躍っぷりに、また苦笑を誘われた。
60点
俵万智(文藝春秋社)

 俵万智が選んだ百人の歌人による、百首の恋の歌。
 見開きの二頁でひとつの歌について解説がなされている。それがとても読みやすくて良かった。
 俵氏の解説は、ときに独りよがりなところもあるが、歌の背景ともいうべき歌人の境遇などについても書かれていて、大いに歌の理解の手助けになった。

 「君かへす朝の敷石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ」
 北原白秋のこの歌が何となく私は気に入ったが、俵氏によると白秋はこの歌を詠んだとき、人妻との姦通罪に問われて拘留中だったそうだ。
 そうきくと、イメージしていた冬の朝の清々しさは消え、寒々しい曇天のもと、やるせない気持ちで佇む作者の悲しみがじんわりと伝わってくる。
70点
辻内智貴(光文社)

 若かりし頃、映画俳優を夢見て街を出た雄さん。病に侵されて東京から舞い戻った彼に、小学生の哲太は惹かれるものを感じる。
 雄さんは、一度だけ端役で映画に出たことがあると聞き、哲太はその映画を必死に探し出すが……。

 ひとつの終わりかけの命があって、その今わの際に、周囲の人々がとびきりの思い出を作ってあげようと奮闘する姿が泣かせる。
 言ってしまえば、冴えない人生を送った雄さん。だがそんな雄さんが、全てを注ぎ込んだ一瞬を、哲太少年は我がことのように大切に思う。その優しさが心に響いた。
 他の登場人物も魅力的なのだが、特に哲太の父親が、強くて優しくて破天荒で、良い味を出している。
80点
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