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よしなしごとども 書きつくるなり
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小川洋子(角川書店)

 短編集。
 『森の奥で燃えるもの』が気に入った。
 「収容所」にやってきた「僕」は、アパートの一室で暮らし始める。美術館での仕事も決まり、登録係の女の子とも親しくなれた。だが「僕」には気になることがあった。ここには時間を指し示すものが一切存在しないのだ……。

 これは、いわゆる「あの世」の話であろうか。時間というものが無く、主人公が永遠を手に入れたと説明されているあたりが、いかにもそんなふうだ。
 この世とあまり変わりがないようなあの世。だが、収容所という言葉の禍々しい響きや、暖炉の炎が青白いという、視覚的な不気味さが、やはり「死」をイメージさせもする。
 他の作品もみな静かな、それでいて抜き差しならぬ恐怖を湛えていて、ぞっとさせられた。
75点
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小川洋子(新潮社)

 短編集。現実的でいて幻想的な、八つの短編が収められている。

 少しホラーの要素もある『匂いの収集』。あらゆる匂いを収集するのが趣味の「彼女」。「僕」はとまどいながらも、その趣味に理解を示していた。あるとき「彼女」の留守中に「僕」は、とんでもないものを見付けてしまう……。
 そこはかとなく危うい空気を醸し出しながら進むストーリー、それはラストのおぞましいシーンで、見事にクライマックスを迎える。思わず上手いなぁと唸ってしまった。
 その他、表題作の『まぶた』も、まるで夢のような部分があるかと思えば、カードで支払いが出来ないという、あまりにも現実的な部分もあったりして、その対比が面白かった。
80点
小川洋子(文藝春秋社)

 夫の暴力から逃れ、一人別荘にやってきた瑠璃子。そこで彼女は、近所に住むチェンバロ制作者・新田と、その弟子・薫に出会う。
 瑠璃子は次第に新田に惹かれはじめ、同時に薫の存在を疎ましく思うのだった……。

 小川氏がこんなにドロドロの世界を書いた、ということにまず驚いた。瑠璃子は結構な策士で、厭な女だ。
 彼女の立場や性格というのは、脇役がお似合いだと思うのだが、あえて主役として語らせることで、ストーリーに一種のねじれ感が生じているような気がした。瑠璃子の気持ちはいいから、薫の本心を知りたいと、何度も思った。
85点
小川洋子(中央公論新社)

 夫に突然離婚を突きつけられ、突発性難聴になってしまった「わたし」。
 彼女はとある座談会でYという速記者と出会う。Yの、細やかで無駄のない指先の動きに、彼女は釘付けになる。やがて再会を果たした二人は、ゆっくりと、ひっそりと打ち溶け合ってゆくのだった。

 浮気や離婚に関する生々しい描写と、「わたし」とYの形作る、幻想のような世界の描写との対比が際立つ。ジャスミンの香りただようホテルの一室、行き先の分からないバスなど、心地よく現実離れしていて良かった。
 ただ、終盤の展開はあまり気に入らなかった。「わたし」がYを呼び付けるシーンなど、その度を越えた弱さに唖然とさせられた。
70点
小川洋子(講談社)

 芸術家が集まる<創作者の家>で、管理人を務める「僕」。彼の元に、ある日怪我をした動物がやって来る。ブラフマンという名前をつけ、彼は動物と一緒に暮らし始める。いらずらっ子のブラフマンに彼は愛情を注ぐが……。

 主人公は決して激昂したりせず、いつも淡々と事実だけを述べる。それがときにこの上なく嫌味に聞こえるから不思議だ。
 レース編み作家にブラフマンの存在を気付かれたときの描写など、彼の「何が悪いんだ」という意識が見え隠れして、結構うんざりさせられた。
 また、彼にはひそかに想いを寄せる娘がいた。その接し方は、彼女が自己嫌悪に陥るように仕向けているようにも思え、ひどく女々しく感じられた。

 私の期待が大きすぎたのかもしれないが、この作品は退屈だった。
60点
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