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ブラフマンの埋葬

小川洋子(講談社)

 芸術家が集まる<創作者の家>で、管理人を務める「僕」。彼の元に、ある日怪我をした動物がやって来る。ブラフマンという名前をつけ、彼は動物と一緒に暮らし始める。いらずらっ子のブラフマンに彼は愛情を注ぐが……。

 主人公は決して激昂したりせず、いつも淡々と事実だけを述べる。それがときにこの上なく嫌味に聞こえるから不思議だ。
 レース編み作家にブラフマンの存在を気付かれたときの描写など、彼の「何が悪いんだ」という意識が見え隠れして、結構うんざりさせられた。
 また、彼にはひそかに想いを寄せる娘がいた。その接し方は、彼女が自己嫌悪に陥るように仕向けているようにも思え、ひどく女々しく感じられた。

 私の期待が大きすぎたのかもしれないが、この作品は退屈だった。
60点
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博士の愛した数式

小川洋子(新潮社)

 優れた数学者でありながら、記憶が八十分しかもたないという、博士。その家に派遣された家政婦の、私。その息子で十歳の、ルート(本名は別にあるのだが、博士がその平らな頭を触ったときにルートと名付けた)。
 三人で過ごす、温かで濃い時間を描く。

 また素晴らしい作品に出会ってしまった。風変わりな設定が、これ以上ないほどに生かされたストーリーである。
 博士が説明する数式の美しさは、たとえ私のような数学嫌いにでも、魔法のように魅力的に響いた。素数とは? 完全数とは? 友愛数とは? それらがまるで芸術作品さながらに、博士の口から語られる。
 それから「小さきものを守らねばならぬ」という博士の揺るぎない確信に、胸を打たれた。ルートを思いやる心は、純粋で清らかだ。
95点

偶然の祝福

小川洋子(角川書店)

 七つの連作短編集。
 それぞれ関連があるような無いような、微妙なストーリーである。
 徹底的に現実的な描写と、ふわっと浮いてるような非現実的な描写が入り混じり、独特の世界が展開されている。

 私が気に入ったのは「キリコさんの失敗」。
 十一歳の「私」の家にいた、お手伝いさんの「キリコ」さん。失くした物を、魔法のように取り戻してくれるキリコさん。
 子供の頃に感じた「大人ってすごい」という素直な驚きを具現化したような人物像である。
80点

密やかな結晶

小川洋子(講談社)

 小説家である「わたし」は、物体と共に記憶をも消滅し続ける奇妙な島に住んでいる。
 彼女は、記憶を失わない編集者のR氏を自宅にかくまうことになる。その特性を持つ者は、秘密警察に捕らえられてしまうからだ。

 この本だけ特別な活字で組んであるのかと思ってしまった。それくらい文字が美しく見える作品なのである。
 島の人々は、抗えない運命を淡々と受け入れてい、「在るもの」だけでなんとか生きていこうとしている。
 そのあまりの静けさに、ときに苛立ちさえ覚えた。しかし次第に、彼らなりの身の処し方に納得させられ、ラストの圧倒的な寂寥感もすんなり受け入れられた。
85点

小川未明童話集

小川未明(新潮社)

 25の童話が収められている。説教くさい話は少なくて、淡々と出来事を書き綴った作品が多い。

 有名な陶器師が、殿様のために薄くて軽い茶碗をこしらえるが、その使い心地は……「殿さまの茶わん」。
 飴チョコの箱に描かれた天使が、工場から出荷されて、いろいろな旅をする……「飴チョコの天使」。
 などなど、懐かしいような、物悲しいようなストーリーは、大人でも楽しめると思う。
 それから、いわゆる「モノ」を擬人化している作品がいくつかあったが、そのような視点で描かれる世界もまた面白かった。
60点

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