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よしなしごとども 書きつくるなり
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小川洋子(新潮社)

 優れた数学者でありながら、記憶が八十分しかもたないという、博士。その家に派遣された家政婦の、私。その息子で十歳の、ルート(本名は別にあるのだが、博士がその平らな頭を触ったときにルートと名付けた)。
 三人で過ごす、温かで濃い時間を描く。

 また素晴らしい作品に出会ってしまった。風変わりな設定が、これ以上ないほどに生かされたストーリーである。
 博士が説明する数式の美しさは、たとえ私のような数学嫌いにでも、魔法のように魅力的に響いた。素数とは? 完全数とは? 友愛数とは? それらがまるで芸術作品さながらに、博士の口から語られる。
 それから「小さきものを守らねばならぬ」という博士の揺るぎない確信に、胸を打たれた。ルートを思いやる心は、純粋で清らかだ。
95点
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小川洋子(角川書店)

 七つの連作短編集。
 それぞれ関連があるような無いような、微妙なストーリーである。
 徹底的に現実的な描写と、ふわっと浮いてるような非現実的な描写が入り混じり、独特の世界が展開されている。

 私が気に入ったのは「キリコさんの失敗」。
 十一歳の「私」の家にいた、お手伝いさんの「キリコ」さん。失くした物を、魔法のように取り戻してくれるキリコさん。
 子供の頃に感じた「大人ってすごい」という素直な驚きを具現化したような人物像である。
80点
小川洋子(講談社)

 小説家である「わたし」は、物体と共に記憶をも消滅し続ける奇妙な島に住んでいる。
 彼女は、記憶を失わない編集者のR氏を自宅にかくまうことになる。その特性を持つ者は、秘密警察に捕らえられてしまうからだ。

 この本だけ特別な活字で組んであるのかと思ってしまった。それくらい文字が美しく見える作品なのである。
 島の人々は、抗えない運命を淡々と受け入れてい、「在るもの」だけでなんとか生きていこうとしている。
 そのあまりの静けさに、ときに苛立ちさえ覚えた。しかし次第に、彼らなりの身の処し方に納得させられ、ラストの圧倒的な寂寥感もすんなり受け入れられた。
85点
小川未明(新潮社)

 25の童話が収められている。説教くさい話は少なくて、淡々と出来事を書き綴った作品が多い。

 有名な陶器師が、殿様のために薄くて軽い茶碗をこしらえるが、その使い心地は……「殿さまの茶わん」。
 飴チョコの箱に描かれた天使が、工場から出荷されて、いろいろな旅をする……「飴チョコの天使」。
 などなど、懐かしいような、物悲しいようなストーリーは、大人でも楽しめると思う。
 それから、いわゆる「モノ」を擬人化している作品がいくつかあったが、そのような視点で描かれる世界もまた面白かった。
60点
小川一水(早川書房)

 四つの作品が収められているが、最後の『漂った男』が良かった。
 惑星パラーザに不時着したタテルマ少尉。その惑星は陸地のない、茫洋とした海が広がる惑星であった。呼吸可能な大気、適温の海水、しかもその中にはゲル状の食べられる物質が含まれている。当分生きていくことが出来る……安心したのも束の間、その広すぎる海にあって、彼の位置が特定できないという連絡が入る……。

 永遠に救援部隊が来ないかもしれないという絶望感のなかで、タテルマは「生」の意味を自らに問う。一生この海を漂うのなら、そこに意味を見出したい、と。そして考え続けることこそが糧となると彼は確信する。
 どこにいても、どんな環境でも、生きる意味はきっとある。彼の強靭な精神力が、そう教えてくれた、天啓のように。

 外国の古いSF小説のような、味わいのある、良い作品集であった。
75点
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