小川洋子(集英社)
創作をめぐるエッセイ集。
たくさんの文学賞を受賞されている大作家であるのに、なんて慎ましやかで人間臭いかたなのだろう。小川氏が好きだ度が一気にアップした。
紹介したい部分があり過ぎて困るくらいだが、とりあえず「そこにいてくれる、ありがたさ」という一文が素晴らしかった。
小・中・高校と、筆者にはほとんど友人がいなかったという。彼女がぼんやりしているうちに、女子たちは密やかにグループを形成し、気付けば置いてけぼりになっている、その繰り返しだったらしい。
高校生のときの修学旅行では、部屋割りの際、彼女の名前はどこにも無く、しかも誰もそれに気付かなかったという。がしかし筆者はこの事実をさほど惨めとは思わず、むしろ面白がっている。
大学生になって、筆者は無二の親友と出会う。大人になっても付き合いは続き(といってもたまに電話で話すくらいらしいが)、この世界のどこかに彼女がいてくれるだけで良いと筆者は書いている。いかに友人がたくさんいるかを自慢する人間が多い昨今、この潔さはどうだろう。
私も一人でいるのは好きだが、ここまで腹を括れない。ヘタレな自分が恨めしくもなった。
95点
創作をめぐるエッセイ集。
たくさんの文学賞を受賞されている大作家であるのに、なんて慎ましやかで人間臭いかたなのだろう。小川氏が好きだ度が一気にアップした。
紹介したい部分があり過ぎて困るくらいだが、とりあえず「そこにいてくれる、ありがたさ」という一文が素晴らしかった。
小・中・高校と、筆者にはほとんど友人がいなかったという。彼女がぼんやりしているうちに、女子たちは密やかにグループを形成し、気付けば置いてけぼりになっている、その繰り返しだったらしい。
高校生のときの修学旅行では、部屋割りの際、彼女の名前はどこにも無く、しかも誰もそれに気付かなかったという。がしかし筆者はこの事実をさほど惨めとは思わず、むしろ面白がっている。
大学生になって、筆者は無二の親友と出会う。大人になっても付き合いは続き(といってもたまに電話で話すくらいらしいが)、この世界のどこかに彼女がいてくれるだけで良いと筆者は書いている。いかに友人がたくさんいるかを自慢する人間が多い昨今、この潔さはどうだろう。
私も一人でいるのは好きだが、ここまで腹を括れない。ヘタレな自分が恨めしくもなった。
95点
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小川洋子(幻冬舎)
面白い対話もあれば、面白くない対話もあった。当たり前だが。
ここは私らしく、面白くなかったほうを。
作家・五木寛之との「生きる言葉」というタイトルがついた対話。
日本人の自殺者の多さについて二人が語っているのだが、その中で五木氏が
「たとえば借金が返せない、生きているのが面倒くさくなった……(略)ような自殺は、逆に言うとあいつを消せば借金は帳消しになるかもしれない、じゃ、消しちゃおうか――こういう考え方とどこか相通ずるものがある」
と言っている。
「借金」とひと括りにして、そこにあるであろういろいろな事情や心情をまるっと無視、あげく犯罪者に近しい? これが有名作家の言うことなのかと唖然とした。
小川氏には関係ない話だが、どうしてもこれが書きたかった。五木氏、見損ないました。
60点
面白い対話もあれば、面白くない対話もあった。当たり前だが。
ここは私らしく、面白くなかったほうを。
作家・五木寛之との「生きる言葉」というタイトルがついた対話。
日本人の自殺者の多さについて二人が語っているのだが、その中で五木氏が
「たとえば借金が返せない、生きているのが面倒くさくなった……(略)ような自殺は、逆に言うとあいつを消せば借金は帳消しになるかもしれない、じゃ、消しちゃおうか――こういう考え方とどこか相通ずるものがある」
と言っている。
「借金」とひと括りにして、そこにあるであろういろいろな事情や心情をまるっと無視、あげく犯罪者に近しい? これが有名作家の言うことなのかと唖然とした。
小川氏には関係ない話だが、どうしてもこれが書きたかった。五木氏、見損ないました。
60点
小川洋子(新潮社)
短編集。
短編というのは尻切れトンボだったり、あるいはいろいろ詰め込みすぎだったり、過不足のない作品というのは存外少ない気がする。が、この7編は素晴らしい。
すぅっと物語は始まり、ここ以外はない、という場所に着地して終わる。
特に印象的だったのは『ガイド』。
「僕」のママはバツイチで、町で観光ガイドをして生計を立てている。ある日、「僕」はママの仕事に一日付き合うはめになる。バスの中では、隣に風変わりな小父さんが座ってきた。彼の職業は「題名屋」だと言う……。
颯爽とガイドをするママを誇らしく思う少年の素直さ。ママのかわりに、小父さんに懸命に名所を紹介する健気さ。そして小父さんが少年に付けてくれた「題名」の深さ。
どれもこれも、はっとするほど鮮やかに描かれていて、短編とは思えない味わい深い作品であった。
90点
短編集。
短編というのは尻切れトンボだったり、あるいはいろいろ詰め込みすぎだったり、過不足のない作品というのは存外少ない気がする。が、この7編は素晴らしい。
すぅっと物語は始まり、ここ以外はない、という場所に着地して終わる。
特に印象的だったのは『ガイド』。
「僕」のママはバツイチで、町で観光ガイドをして生計を立てている。ある日、「僕」はママの仕事に一日付き合うはめになる。バスの中では、隣に風変わりな小父さんが座ってきた。彼の職業は「題名屋」だと言う……。
颯爽とガイドをするママを誇らしく思う少年の素直さ。ママのかわりに、小父さんに懸命に名所を紹介する健気さ。そして小父さんが少年に付けてくれた「題名」の深さ。
どれもこれも、はっとするほど鮮やかに描かれていて、短編とは思えない味わい深い作品であった。
90点
小川洋子(集英社)
エッセイ集。
『博士の愛した数式』にからめた数学の話が面白かった。
「素数とは1と自分自身以外では割り切れない自然数である……(中略)分解されることを拒み、常に自分自身であり続け、美しさと引き換えに孤独を背負ったもの。それが素数だ。」
素数がそんなにも特別な数字だったなんて、単純に驚いた。
私は昭和×年11月1日生まれであるが、全部素数だ、どおりで美しくて孤独なんだ、と思ったら「1」は素数では無かった。詰めが甘かった。
冗談はさておき。
『罵られ箱』も良かった。落ち込んだときは無理に前向きにならず、駄目な自分を再確認するそうだ。ネガティブな私にも真似できそうな処世術だ。
70点
エッセイ集。
『博士の愛した数式』にからめた数学の話が面白かった。
「素数とは1と自分自身以外では割り切れない自然数である……(中略)分解されることを拒み、常に自分自身であり続け、美しさと引き換えに孤独を背負ったもの。それが素数だ。」
素数がそんなにも特別な数字だったなんて、単純に驚いた。
私は昭和×年11月1日生まれであるが、全部素数だ、どおりで美しくて孤独なんだ、と思ったら「1」は素数では無かった。詰めが甘かった。
冗談はさておき。
『罵られ箱』も良かった。落ち込んだときは無理に前向きにならず、駄目な自分を再確認するそうだ。ネガティブな私にも真似できそうな処世術だ。
70点
小川洋子(文藝春秋社)
寡黙な少年は、回送バスに住む「マスター」と出会い、チェスの手ほどきを受ける。少年はチェスに魅入られ、その奥義に触れ、それからの人生をチェスとともに歩む。
いろいろな出会い、別れ。どれだけ時が経とうとも、少年の身体は少年のままで、心はチェスの宇宙を旅していた……。
チェスの指し方も知らない私だが、それでもこの物語の世界にどっぷり漬かることができた。少年の天才的な才能に胸を躍らせ、「大きくなること=悲劇」と思う少年の心情に胸を痛めた。
個性的な脇役たちが、またいい。優しくて、身体も心も大きなマスター。伸びやかに、颯爽とチェスを指す老婆令嬢。細く白く透き通る手を持つミイラ。それぞれが少年のことをいとおしく思っていて、その温かい思いが全編を満たしている。
少年の唇に毛が生えているという設定と、悲劇的なラストはどうにも受け容れ難かったが、それ以外は文句なしの素晴らしい一冊であった。
85点
寡黙な少年は、回送バスに住む「マスター」と出会い、チェスの手ほどきを受ける。少年はチェスに魅入られ、その奥義に触れ、それからの人生をチェスとともに歩む。
いろいろな出会い、別れ。どれだけ時が経とうとも、少年の身体は少年のままで、心はチェスの宇宙を旅していた……。
チェスの指し方も知らない私だが、それでもこの物語の世界にどっぷり漬かることができた。少年の天才的な才能に胸を躍らせ、「大きくなること=悲劇」と思う少年の心情に胸を痛めた。
個性的な脇役たちが、またいい。優しくて、身体も心も大きなマスター。伸びやかに、颯爽とチェスを指す老婆令嬢。細く白く透き通る手を持つミイラ。それぞれが少年のことをいとおしく思っていて、その温かい思いが全編を満たしている。
少年の唇に毛が生えているという設定と、悲劇的なラストはどうにも受け容れ難かったが、それ以外は文句なしの素晴らしい一冊であった。
85点