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よしなしごとども 書きつくるなり
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川上弘美(新潮社)

 「わたし」が綴る、夢の世界。
 他人の夢の話ほどつまらないものはないが、この本はどうだろう。
 読んでいて飽きないどころか、もっともっと読みたい気持ちにさせられる。
 たとえばこんなくだり。
 「夕方になると、水平線がゆがみはじめた。……(略)断続的にゆがむことを繰りかえし、日没の直前に、一瞬消えた。」
 その景色、見てみたいものである。
 山口マオ氏のイラストも文章の雰囲気に合っていてまた良い。
85点
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川上弘美(平凡社)

 川上氏の作品「センセイの鞄」に登場するツキコとセンセイ。
 二人のとある一日……そうめんを食べて、昼寝をし、ツキコさんは幼い日の思い出を語り始める。

 なんていとおしい一冊なのだろう。この個性的な装丁。短いけれど、ひと言ひと言がうっすらと光っているような言葉たち。
 大好きな作品の、こんなエピソードを読むことができ、筆者にお礼が言いたくなるような一冊であった。
95点
川上弘美(平凡社)

 37歳の「私」は、高校時代の国語教師と再会する。あわあわと親密さを増してゆくふたり。

 これは素晴らしい。手放しで褒めちぎりたい。派手さのないストーリーのなかに見え隠れする、独特のユーモア、卓越した性格描写。
 たとえばこんなくだり。「小学生のころ、わたしはずいぶんと大人だった。しかし中学、高校、と時間が進むにつれて、はんたいに大人でなくなっていった。……(略)時間と仲良くできない質なのかもしれない。」
 平易な文章に才気があふれ出る。
 ふたりが紡ぎだすたゆたうような、しかし濃密な愛。静かで優しい愛。しんしんと心に染み渡った。
100点
川上弘美(文藝春秋社)

 「自分にしっくりくる文章」というのが第一印象。かなりの不思議ワールドで、かっ飛んではいるものの、すんなりと分かりやすい。こういう内容の作品というのは、得てして難解な言葉が並んでいて閉口することが多いのだが、この作品は違っていた。
 あらすじは……やめておこう。実際、筋なんてどうでもいいと思える作品である。脳みそを弛緩させて、一語一語を楽しむ、そんな読み方が適していると思う。
70点
坂口安吾(角川書店)

 短編集。
 表題作の「肝臓先生」。熱血町医者の赤城は、別名「肝臓先生」と呼ばれていた。
 彼のところへ来る患者のほとんどが肝臓病と診断されたからだ。それは、彼の見立てが悪かった訳ではなく、戦時中における肝臓病の蔓延の始まりだったのであった。

 ひたむきで優しい先生の生き方に、心打たれた。あまりの肝臓病患者の多さに困惑する彼が、恩師の謝恩会で他の医師から激励されるシーンなどは、私も安堵し、嬉しくなった。
 他に「行雲流水」も、コミカルで、ひやりとした怖さもあって、良かった。
65点
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