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よしなしごとども 書きつくるなり
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吉田修一(文藝春秋社)

 大工の大輔は真美と、その子供の小麦と同棲していた。そのマンションには、大輔の義理の弟・光男も同居していた。仕事もせずに、日がな一日熱帯魚ばかり見ている光男。やがて彼は大輔の金を持ち逃げしてしまう。

 イマドキの若者を描いた小説はたくさんあるが、上滑りしていたり、現実感に乏しかったりするものが多い気がする。でもこの作品は、違う。若さゆえの衝動的な行動を、生々しく描き出している。
 百円ライターが、ある時はバケツに沈み、ある時は母親の手から渡され、最後にプールに沈む。誰にでも容易に想像できる「景色」の組み込み方がうまいと思った。
80点
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川上弘美(講談社)

 短編集。「森」が印象深かった。
 法事で実家に戻った「私」は、幼なじみの祐一に25年ぶりで再会する。50歳になった二人の、淡い、つかの間の恋を描く。

 たまに自分が50歳になったときのことを考える。きっと誰かを好きになったりはもうしないのだろうな、と思う。でもこの小説を読んで、50歳の恋もいいな、と思い直した。
 二人のこなれた雰囲気、残っている若さを、静かに確かめ合えるような関係が、そう思わせてくれた。
 退屈な短編もあったが、全体としては、ちびちび少しずつ楽しんで読むことができた。
70点
小川洋子(新潮社)

 短編集。
 短編というのは尻切れトンボだったり、あるいはいろいろ詰め込みすぎだったり、過不足のない作品というのは存外少ない気がする。が、この7編は素晴らしい。
 すぅっと物語は始まり、ここ以外はない、という場所に着地して終わる。

 特に印象的だったのは『ガイド』。
 「僕」のママはバツイチで、町で観光ガイドをして生計を立てている。ある日、「僕」はママの仕事に一日付き合うはめになる。バスの中では、隣に風変わりな小父さんが座ってきた。彼の職業は「題名屋」だと言う……。
 颯爽とガイドをするママを誇らしく思う少年の素直さ。ママのかわりに、小父さんに懸命に名所を紹介する健気さ。そして小父さんが少年に付けてくれた「題名」の深さ。
 どれもこれも、はっとするほど鮮やかに描かれていて、短編とは思えない味わい深い作品であった。
90点
吉田知子(中央公論社)

 短編集。8つの短編が収められている。
 『泳ぐ箪笥』が良かった。夫の盆栽を嫌い、こっそりガレージ整理に出していた照子。出せば出すだけ捌けていく盆栽。やがてガレージ整理はとんでもない事態へと向かう……。

 他の短編もそうなのだが、いつの間にか日常が非日常になっていく過程が、さらりと描かれている。「あれ?」と思ったときにはもう異界の入り口に立っているという寸法。
 だいたいカレージセールじゃないのか? タダだから「セール」じゃない? なんて疑問も置き去りにされたまま、家中のものが整理されてゆく。座っていた座布団まで取られ、ここまでくるとコントの世界。
 ぞっとして、ふふっと笑える、そんな作品が揃っている一冊。
70点
川上弘美(マガジンハウス)

 短編集。
 「コーヒーメーカー」が良かった。
 恋人である中林さんに、会いたくて仕方がない杏子の一週間。本の帯にも書かれている一節が、とても印象深かった。
 『あいたいよ。あいたいよ。二回、言ってみる。それからもう一回。あいたいよ。』
 簡潔に、ただただ簡潔に心情を述べているだけっぽいのに、この切なさはどうだろう。
 言葉を飾らなくても心に響く文章は書ける、ということの見本のような一節ではないだろうか。

 他に、その後の杏子を描いたと思われる「山羊のいる草原」も良かった。人の心の移ろいを、静かに丁寧に描いていて、良かった。
80点
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