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李陵・山月記

中島敦(新潮社)

 「山月記」「名人伝」「弟子」と、以下に紹介する「李陵」の四編が収められている。

 漢と匈奴(きょうど・遊牧騎馬民族)が激しい抗争を繰り広げていた時代。
 李陵というひとりの武将が匈奴に戦いを挑むも、逆に囚われの身となってしまう。彼を擁護するような発言をして刑罰を受ける、司馬遷。また、捕虜となっても決して降伏することのなかった、蘇武。三人三様の生き方を、力強く描く作品。
 と、さも分かったように粗筋を書いたが、私にはとても難しい作品だった。山ほど注解はあるものの、歴史的流れがよく理解できないのだ。
 それでも、郷土愛に燃える、誇り高き蘇武に、李陵が圧倒されて自分の小者ぶりに愕然とする部分などは、とても心に響いた。
 「山月記」でも誰にも知られずに忘れ去られる者の不安が描かれていたが、そのあたりが作者の不安とも結びついているのだろうか。
60点
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1Q84 BOOK3

村上春樹(新潮社)

 BOOK1、BOOK2の続き。
 この本では「青豆」と「天吾」の他に、青豆を追跡する「牛河」が語り手として加わる。
 青豆と天吾は再会できるのか? 牛河という追っ手から青豆は逃げおおせるのか?

 1、2巻で謎だった部分は、たいぶ解き明かされた。しかし依然として核の部分が説明されないまま終わっていて、この物語はまだ続くのか? という疑念が残った。
 とりあえず、3巻は「牛河」という要素が加わったことによって、よりスリリングにストーリーが展開するようになった。その点は良かったが、次第に青豆の独断的な言動が鼻に付くようになった。根拠の無い自信ほど鬱陶しいものはないと私は思う。

 この作品、「村上春樹」という看板が掛かっているから、何となく納得させられた気になって読了したが、その実、筆者は読者を置き去りにしていないだろうか。
 有名店の味が貴方には理解できないのですか? という傲慢さがほの見えた気がした。
70点

猛スピードで母は

長嶋有(文藝春秋社)

 小学生の慎は母親と二人暮らし。あるとき母親が再婚すると言い出し……。

 パワフルで少し自分勝手な母。慎に対しては一定の距離感を保とうとしているかのようだ。でも愛情に裏打ちされてる「距離」なので、冷たさは感じられない。
 一方慎は、母親を嫌悪することもなく、そっと寄り添うことで充足するような子供として描かれている。
 二人でいると居心地のよさそうな親子。そんな印象が残った。
 同時収録の「サイドカーに犬」も良い作品だ。私はこっちのほうが好きだ。
75点

ガダラの豚 I~III

中島らも(集英社)

 アル中の教授、大生部。彼の娘「志織」は、七歳のときケニアで事故死する。数年後、テレビ局の特番の撮影で、彼は再びケニアへと飛ぶ。

 導入部から、息をもつかせぬ展開。寺の僧侶が命を賭してする荒行。大生部の妻がハマる新興宗教、ケニアでの撮影、テレビ局内での死闘。ヤマ場の連続である。
 多くの文献を参考に書かれたようだが、らも流にうまく消化されていて、とても読みやすい。
 ただ「志織」の心理描写が不足していると思う。呪術師に操られている、という設定はわかるが、スタンスが曖昧過ぎ。
75点

1Q84 BOOK1,BOOK2

村上春樹(新潮社)

 「青豆」と「天吾」の物語が交互に語られる。
 スポーツ・クラブのインストラクターである青豆。彼女は殺し屋でもあった。DVの加害者をあの世へ送り込むこと、それが彼女の裏の仕事。
 天吾は予備校の講師。文筆の仕事も少し。あるとき新人賞に応募してきた「ふかえり」という女性の原稿の書き直しを依頼される。それは荒削りだが人を惹き付ける何かを持った不思議な原稿だった……。

 数々の村上氏の作品を読んできたが、今回初めて「くどい」と思った。文章の繰り返しが多すぎる。力説したいのは分かるが、そこは敢えてさらりと書いて欲しかった。読む側の「ここが肝かな?」という発見の楽しみを残しておいて欲しかった。

 幻想的な部分があったり、かと思えば非常に生々しい性描写があったり、NHKの集金の話から宗教団体の話まで……その振り幅の大きさにしばしば戸惑った。それら散りばめられたパーツは、やがては収束していった。が、(意図的に?)取りこぼした部分もあり、その不明瞭さが作品全体の印象を損なう結果となっている。
70点

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