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縦走路

新田次郎(新潮社)

 登山仲間である蜂屋と木暮。二人は八ヶ岳で、千穂という女性と出会う。
 彼女は、女流登山家は不細工である、という定説を覆す美女であった。だが彼女はまれに見る自分本位な人間であった。
 二人の男は、彼女に振り回されつつも、彼女に惹かれてゆく……。

 鼻持ちならない千穂にイライラし通しだった。
 彼女の学生時代のライバル、美根子という女性が登場するが、彼女は不倫していたり、好きな男性を姑息な手段で手に入れようとしたりする。
 でも千穂の性格よりまだ彼女のほうがマシな気がした。
 ところで、木暮が登山に向かう蜂屋に、ナイロンザイルを渡そうとするシーンがある。蜂屋は「前穂高でナイロンザイルの切断事故があった」という話をする。
 これは先日読んだ井上靖の「氷壁」のことであろう。
 作品どうしがこういうふうに繋がってゆくのはとても興味深い。
60点
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単発企画~グレコローマンかたぎ

そね(カイ Web-no HON)

 私がいっぺんで気に入ったサイト「グレコローマンかたぎ」のコンテンツ「単発企画」。
 その中から選りすぐりをまとめたのが本書である。
 いや、正確に言うと「単発企画」は閉鎖されてる部分が多いため、この本が選りすぐりかどうかは謎である。
 それでも非常に面白いことは断言できるし、「お友達にすすめ」ないで欲しいと筆者は書いているが、最近愉快な本がないとお嘆きの貴兄にはぜひ読んでいただきたい一冊である。
 私のいちおしは、おまけの「きのこの歌」。これを読んでも笑わない人とは、きっと仲良くなれないと思う。
 さてこの本は普通の書店では入手できません。興味が湧いた方は万能書店というサイトへどうぞ。
90点

牛乳アンタッチャブル

戸梶圭太(双葉社)

 乳製品の最大手「雲印乳業」(雪印ではありません、念のため)の牛乳で、集団食中毒事件が起こった。
 能無しの社長は「私は寝てないんですよ!」と逆切れし、役員たちは自らの保身のために右往左往。そんなとき、再建を賭けたリストラを断行する集団が現れ……。

 おそらくフィクションなのだろうが、個々の登場人物がとても生き生きとしていて、アノ食中毒事件も内部的にはこうだったのだろうと思わせる迫力がある。会社の上層部のバカさ加減が、悲しくも苛つく。
 かなり面白く読むことができたが、無駄な部分も散見された。社長をおちょくる謎の看護士や、宮部の交際相手など、本心が不明なままうっちゃられた登場人物がそれである。
80点

溺れる魚

戸梶圭太(新潮社)

 とある大手企業が「溺れる魚」と名乗る犯人から脅迫を受けていた。それは経理部長にを奇怪な格好をさせ、銀座の街を歩かせろ、というものだった。
 ひそかに犯人を追う一人の警部。さらに彼を見張る二人の警部補。また、犯人に成り代わって金を脅し取ろうとする警部。はたして最後に笑うのは誰なのか?

 追うものと追われるものがくんずほぐれつ、最後までとにかく飽きさせない。女性や端役のちんぴらの描き方が雑だが、細かいことは言いっこなし、という気にさせられる。
 ラスト、最後に金を手に入れたのが彼だとは……と、人情的にがっかりしたが、犯罪がらみの金なんて、得てしてそういうところに落ち着くのかもしれない。
75点

神のふたつの貌

貫井徳郎(文藝春秋社)

 牧師の息子である早乙女は、幼い頃から神について深く考えを巡らすことが多かった。なぜ神は永遠の沈黙を守るのか。神は人間を創り、そして見捨てたのか。福音を聞くにはどうしたらよいのか……。彼の疑問は膨れ上がり、やがて暴走し始める。

 裏表紙に「殺人者への道」とあったので、早乙女が殺人を犯すということは予想はついていた。だがそのシーンはあまりに唐突に出現し、しかもかなり残酷だ。彼は客観的に見た場合、ただの人格破綻者だが、彼の裡には筋道だった理屈が存在するからタチが悪い。
 さて、この作品は全編を通じてキリスト教についての言及があるが、遠藤周作の作品と比較すると、それは踏み込み不足である。
 トリックの点でもあまり上手とは言えない部分があった(同じような人物名を使っているところなど)。
 ただ牧師の犯罪という設定はかなり興味深かった。
70点

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