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よしなしごとども 書きつくるなり
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村上春樹(新潮社)

 「青豆」と「天吾」の物語が交互に語られる。
 スポーツ・クラブのインストラクターである青豆。彼女は殺し屋でもあった。DVの加害者をあの世へ送り込むこと、それが彼女の裏の仕事。
 天吾は予備校の講師。文筆の仕事も少し。あるとき新人賞に応募してきた「ふかえり」という女性の原稿の書き直しを依頼される。それは荒削りだが人を惹き付ける何かを持った不思議な原稿だった……。

 数々の村上氏の作品を読んできたが、今回初めて「くどい」と思った。文章の繰り返しが多すぎる。力説したいのは分かるが、そこは敢えてさらりと書いて欲しかった。読む側の「ここが肝かな?」という発見の楽しみを残しておいて欲しかった。

 幻想的な部分があったり、かと思えば非常に生々しい性描写があったり、NHKの集金の話から宗教団体の話まで……その振り幅の大きさにしばしば戸惑った。それら散りばめられたパーツは、やがては収束していった。が、(意図的に?)取りこぼした部分もあり、その不明瞭さが作品全体の印象を損なう結果となっている。
70点
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中島らも(講談社)

 アル中の主人公が肝硬変で入院するという話。患者たちはヘンな人ばっかりで笑える。でいろいろ笑わせておいて、最後に命について考えさせられる事件が起こる。
 崖っぷちで踏みとどまって生き長らえる人間、潮が引くように、しかも前触れもなく死んでいく人間。その差は何なのだろうか。生命力?この作品を読むと、そればかりではないように思えてくる。もっと抗いがたい、何らかの「力」が作用している気がする。
70点
村上春樹(講談社)

 深夜のファミレスで時間をつぶすマリ。彼女の前に、以前会ったことがある若い男タカハシが現れる。
 いっぽうマリの姉のエリは、どこかの部屋で深く眠っている。いつ覚めるとも知れない、深い眠りだ……。

 どこまで読んでも地下鉄サリンの話にならないので不審に思ったら、そっちは「アンダーグラウンド」という作品だった。その勝手な勘違いが災いしてか、とても退屈な小説に思えてしまった。
 特にエリの部屋の描写は、同じことの繰り返しにしか思えなかった。ここをばっさり削ってラストのAM6:52へ飛んでもまったく問題ないのではないだろうか。
50点
中野京子(文藝春秋社)

 映画の紹介エッセイ。
 私が見たものは二割にも満たないくらいだったが、だからこそ今後の楽しみが増えたとも言える。
 大いに共感したのは『誰も知らない』。少年が最悪の境遇で孤軍奮闘するさまは、本当に美しくて悲しくて、泣けて泣けてしょうがなかった。
 逆に「?」だったのは『シカゴ』。筆者はダンスを貶し、主要人物の悪党ぶりに辟易しているようだが、私はこの映画が好きだ。一流になろうとしている人間は、これくらいの汚さとガッツがあっても良いと思う。
70点
村上春樹、安西水丸(朝日新聞社)

 期間限定で開設された村上氏のサイトに寄せられた質問に、村上氏が自ら答えるという内容。

 質問の内容が多彩で面白かった。作品のこと、ジャズについて、翻訳とは? 果ては人生相談まで。中には質問者の自慢話っぽいものもあったが(オレ様の知識を聞いて驚けふうな)、そういう輩にも村上氏は丁寧な答えを返す。
 心に残ったQ&Aは
 Q「本の面白さを、言葉でうまく表現することができない」
 A「それは自然なことで、何も恥じることはありません。言葉だけは達者だけど、魂は浅いという人が世の中にはたくさんいます」
 言葉も魂も、いっしょに磨かなければと今更ながら私も思った。
70点
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