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日常茶飯事

山本夏彦(新潮社)

 雑誌「室内」に連載されていたコラムを集めた短文集。
 本作品が単行本として出たのは昭和37年。だが、今読んでも古臭さは感じない。
 たとえば、昨今婦女子は出れる、出れないと、ら抜き言葉を使うと嘆じる一節がある。
 たとえば、寿司屋で。客を馬鹿にする寿司職人とへつらう客の、主客転倒を観察する一節がある。
 それは今現在も人々の口にのぼる話題であろう。
 また、思わず苦笑してしまう話もあった。「すべて婦人は、自分を美人の一種だと思っている。すくなくともその一種だと思っている」などという文章は、まさに言いえて妙である。
65点
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魔王

伊坂幸太郎(講談社)

 ごく普通のサラリーマン・安藤は、あるとき自分の特殊な能力に気付く。自分が思った言葉を他人にしゃべらせることが出来る、腹話術のような能力。彼はそれであることに挑戦しようとするが……。

 のっけから選挙や政治の話が出てきて、これはつまらない本かも……と思ったらとんでもなかった。面白過ぎて、読了してすぐ続編ともいうべき『モダンタイムス』をポチったほどだ。
 まず危惧した政治の話が、ことのほか良かった。カリスマ性を持った政治家の術中に、まんまとはまっていく民衆。何かがおかしいと、流れに抗おうとする安藤。彼の弟もまた深く静かに行動し始める。
 この作品が書かれたのは、あの小泉首相が誕生した日よりも前らしい。当時の日本は小泉劇場に魅了されていた。まさにこの作品にそっくりだった。その危険性を改めて感じさせられた。
95点

シュガーレス・ラヴ

山本文緒(集英社)

 もっとベタベタした、クサい話を想像していたのだが、そうでもなかった。乾いた文体で、余計な描写がなくて、その点では良かった。
 でも内容は……ここに出てくる女達、私は嫌いです。淋しいからって、すぐ男を誘うな、と言いたい。自分は辛い、自分は可哀想、自分は自分は。聞きたくない。
 ちょっと光が見えたらしいラストが多いが、勝手にしろと言いたくなった。作者の文章自体は嫌いではないので、もっと違うタイプの話が読みたい、そういうのがあれば、の話だが。
45点

モダンタイムス

伊坂幸太郎(講談社)

 SEである渡辺は、ある出会い系サイトの仕様変更をすることになる。その仕事をしていた先輩は逃げ、客先とは連絡がとれない、と奇妙なことが続く。やがて渡辺はあることに気付く。その出会い系サイトは、複数のキーワードでたどり着いた人間を見張っているらしい……。
 ソフト会社の悲哀がこれでもかと書かれていて、内輪ネタっぽいがウケた。この納期は不可能だと上司に食ってかかる部下、工夫で乗り切れとのたまう上司。まさに業界あるある。
 閑話休題。
 「そういうシステム」という言葉が繰り返し出てくる。政治が動く。独裁者が現れる。人々が熱狂し、やがて醒める。それらは誰かが画策しているわけでない、そういうシステムなのだ、と。確かにそうかもしれない。どんな権力者だとて「駒」に過ぎず、世界は勝手に移ろいゆく。この作品にある言葉を借りるなら、そこに見いだせるのは虚無しかない。
 だから主人公たちは目の前にある問題から解いていく。小さなことからコツコツと(これも誰かの言葉だ)。
 虚しいと言って背を向ける前に、人には為すべきことがある。そんなメッセージをこの作品から感じとった。
80点

食卓の情景

池波正太郎(新潮社)

 食についてのエッセイ。
 昭和四十年代に書かれた作品なので、時代的なズレはある。例えばキーウィが珍菓として登場したりする。
 しかしながら、本質的な部分は少しも色褪せておらず、「食」に興味の薄い私でさえとても楽しんで読むことができた。
 筆者が小学生のときの担任がカレーライスをご馳走してくれた話は、私も似たような経験があるので、胸に迫るものがあった。
75点

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