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文豪怪談傑作選 川端康成集 片腕

川端康成(筑摩書房)

 短編集。
 川端康成が怪談を書いていたとはつゆ知らず、自分の不勉強を恥じるばかりだが、彼は生涯にわたり「心霊」と「性愛」というモチーフを追い求めたのだそうだ(解説より)。

 『無言』が面白かった。
 一言もしゃべらなくなった老小説家の見舞いに行く、やはり作家の三田。彼は老作家に、話せないのなら筆談したらどうかと提案するが、老作家は何の反応も示さない。彼の沈黙に三田は苛立つが……。
 ラストの運転手のセリフがいい。ぞっとさせられ、やがて考えさせられる。
 他に、掌編の『心中』『霊柩車』も妖しくて残酷で心に残る作品だった。
75点
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リカ

五十嵐貴久(幻冬舎)

 インターネットの出会い系サイトで、気軽な浮気を楽しんでいた本間。しかし、あるときリカと名乗る女性と出会ってから、彼の愉しみは恐怖へと変貌していった。

 ざっと流し読みする分には面白い作品かもしれない。だが、私のような素人にもはっきりと分かる粗さがある。
 リカが本間の娘にした行為が、最も解せなかった。その意味の説明が曖昧すぎる。それからリカの設定があまりにも人間離れしている。実は彼女はサイボーグだった、なんてオチがつくのかと身構えてしまった。
 全体的に作者が慌てて書いているような印象を受けた。ホラー、サスペンスは読者を焦らしてなんぼ、であろう。
65点

山の音

川端康成(新潮社)

 主人公の信吾は、老妻と息子、その嫁とで暮らしていた。そこへ娘が嫁ぎ先から子供連れで出戻ってきて、落ち着かない日々を送ることになる。
 しかも息子は外に愛人がいるようで、信吾は可憐な嫁が不憫でならない。

 やはり、たまにはこういう名作を読むべきだとつくづく思った。一字一句、疎かにしたくない気持ちにさせられた。
 信吾の見た「夢」の話がしばしば登場し、普通なら辟易するところだが、そういう部分さえ精読してしまったくらいである。
 昭和二十年代、人々は今よりずっと不便な時代を生きていたはずであるが、風雅な感情を忘れず、美しい日本語でそれを表現していたのである。
90点

小指の先の天使

神林長平(早川書房)

 中・短編が六作品収められている。
 これぞSF、というにおいの強い作品ばかりである。近未来のような設定、仮想と現実が入り混じる世界。純然たるSFモノを久々に読んで、懐かしさを感じた。

 六編の中では比較的分かりやすかった「意識は蒸発する」を紹介しよう。
 コンピュータの仮想空間へダイビングする実験をしている「わたし」。気が付くと、入国管理事務局の前に佇んでいた。空気もあり建物もあるが、そこは完璧に無人の世界であった……。
 ラストの「わたし」の気付きが、この作品の結論であろうか。現実世界においては「わたし」の意識はやがて消えてなくなる。どこかしらに保存されることは、ない。その確信を得た彼は、世界を、人生を達観したかのようである。
60点

女王国の城

有栖川有栖(東京創元社)

 信州の神倉という街は、新興宗教「人類協会」の聖地であった。英都大学の推理小説研究会部長である江神は、その街へ行ったらしい。なかなか戻らない彼を心配して、研究会の仲間四人が神倉へ乗り込むが、そこで思わぬ殺人事件に遭遇し……。

 本を手にした瞬間その厚さと重さに驚き、果たしてこんな長編を飽きずに読み通せるのかと思ったが、まったくの杞憂であった。
 何やら秘密を抱えているらしい宗教団体。「城」に幽閉されてしまった研究会のメンバーの目前で、次々に巻き起こる事件。テンポ良く進むストーリーに釘付けとなった。
 犯人は、キャラクター的に少し弱い気もしたが、動機は意外性があって良かった。読了後、彼が自らの生い立ちを語るシーンを探しに探してしまった。

 この作品に掲載されている「城」の図面は、私淑する建築家の安井俊夫氏によるものです。「城」を具体的にイメージできて助かりました。
85点

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