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夏の終り

瀬戸内晴美(新潮社)

 染色の仕事で生計を立てている知子。彼女は八年もの間、妻子持ちの慎吾と半同棲し、しかも他に凉太という恋人までいる。
 一見奔放に見える知子だが、その実「馴れ合いの関係」にがんじがらめにされ、引くことも進むこともままならなくなっている。

 知子と慎吾のように、悪気はないが性悪な人達の話は、読んでいて疲れる。常に誰かが問題を解決してくれるのを待っていて、それは絶望ゆえだとうそぶく。甘ちゃん同士の傷のなめあいに他ならない。
 ひとつ、心に残る表現があった。他人を疑うことを知らない慎吾をさして、知子は育ちの良さの鷹揚さだと言い、一方凉太は自分のことしか見えない利己主義だと言う。
 きっとどちらも正解なのだろう。
60点
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坑夫

夏目漱石(新潮社)

 家出をした19歳の主人公は、偶然知り合った男に誘われるままに銅山で坑夫になることを決心する。野卑な坑夫たちに愚弄されながら、彼は坑内を地中深く降りてゆくという、悪夢のような体験をする。

 事件らしい事件は起きないのだが、全編に小技の効いたユーモアが散りばめられていて飽きさせない。主人公の青年は、話しかけてきた男を「どてら」と命名してみたり、『汽車に乗っていたんだ、坑夫になるんだ、どうしたんだ、こうしたんだと、十二、三の「たんだ」が一度に湧いてきた……』などと表現してみたり。枝葉の部分でくすりと笑わせられた。
 また、本書の主題と思われる、人間の思考なんて所詮流動的なもので、そこに絶対を求めるのは無理だという、主人公の諦めめいた思いに、深く納得させられた。
 ところで60ページ目に、今どき珍しい伏字があった。何と記述してあったのか、気になるところである。
85点

こころ

夏目漱石(角川書店)

 高校の教科書に抜粋が載っていた。
 全文を読んで、当然のごとくさらに感動した。先生の心理、Kの思い、先生の奥さんの悲しみ。読めば読むほど心に沁みた。
 この作品は「ミステリー」だという解釈もあるらしい。確かにKが自殺するあたりは、意外性も緊迫感もあり、ミステリー、しかも一流の、と言っても過言ではないと思う。
95点

羅生門 蜘蛛の糸 杜子春 外十八篇

芥川龍之介(文藝春秋)

 十八の短編だが、いずれ劣らぬ名作ぞろいである。ユーモラスな「鼻」。芸術家の業を描いた「地獄変」。ミステリーのような「藪の中」。
 そんななかでも遺作となった「歯車」は秀逸である。有名な作品なのであらすじは省くが、あの世とこの世のきわを、行きつ戻りつしているような危さに満ち満ちている。何を見ても「死」に結び付けようとする、主人公の異様に研ぎ澄まされた神経に、読んでいるあいだ中緊張を強いられた。
 怖い話、おどろおどろしい話はたくさんあれど、この作品ほど負のエネルギーに吸い込まれそうになる作品は、そうはないだろう。
90点

ボン研究所

ナンシー関(角川書店)

 公式ホームページ「ボン研究所」に書かれていたコラム集。
 三年も前の話から始まってるので、ちょっと懐かしい感じもするのだが、その頃から山田○子はズレていたんだとか、華原○美は痛かったんだとか、今読んでも色あせない(?)話は多い。
 ひとつ、私もまったく同じことを考えていた、という話が載っていた。良い声の男性についての考察。その声で「愛してるよ」も言うし「トイレに紙ないよ」も言うという事実に、それでいいのか? という疑問がどうしても湧いてくるのである。良いも悪いもない話なのだが。

 ※2003年9月現在、ホームページは公開されていて、この本のコラムはそちらで読むことができる。
75点

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