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夜よりほかに聴くものもなし<サスペンス篇>

山田風太郎(光文社)

 山田風太郎のミステリー傑作選の第三巻。十三の作品が収められている。
 タイトルにもなっている「夜よりほかに聴くものもなし」を紹介しよう。八坂という一人の老刑事が事件の謎を解く、連作短編集。
 彼は、物語の最後に必ず「それでも……おれは君に、手錠をかけなければならん」と言う。唾棄すべき人間が犯人だった場合はもちろんのこと、犯人がどんなに同情に値しようとも、老刑事は職務を全うしようとする。
 彼が事件の全容を掴んで、身を震わせるようにしてこのセリフをつぶやくので、読んでるほうも充分に感情移入できる。
 他に「鬼さんこちら」という短編も、まるでミステリーのお手本たる、切れ味鋭い作品である。
90点
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ゴールデンスランバー

伊坂幸太郎(新潮社)

 首相が凱旋パレード中に暗殺される。警察が犯人として発表したのは青柳という男。だが彼は真犯人ではなかった。警察の常軌を逸した追跡を、彼はかわすことができるのか?

 伊坂氏が得意とする場面が次々と変わっていく手法が、ストーリーに絶妙な疾走感を与えている。伏線は折り重なるように張られ、それらが繋がるときの快感といったらもう。
 主人公・青柳の性格がまたいい。素直で普通で、思わず「がんばれ!」と励ましたくなるような人柄なのだ。
 終盤の展開は主人公にとってけっこう過酷なものであったが、彼が「その事実」を面白がっているような描写があって、前向きな彼に救われる気がした。
95点

怪談部屋<怪奇篇>

山田風太郎(光文社)

 山田風太郎のミステリー傑作選の第十巻。
 二十七の作品が収められているその中で、どうしたってこれを紹介しなければなるまい。
 「うんこ殺人」。
 事故死して、地獄へと来てしまった鏡氏。
 彼の首は胴体の上にはなく、片手に自分の首をぶら下げているというからグロである。
 そして共に地獄に堕ちた妻と、地獄の裁判所で罵りあう。
 その妻はと言えば、首が百八十度回転して、顔の下が背中になっている。加えて内臓が飛び出している娘。
 三人がなぜかうんこまみれなのである。その訳は……。
 何てばかばかしいのだろう。嬉しくなってしまう。痛快無比である。
 その他、近未来を描いたSF色の濃い作品もまた楽しめた。
85点

十三角関係<名探偵篇>

山田風太郎(光文社)

 山田風太郎のミステリー傑作選の第二巻。
 七つの短編と長編が一つ収められている。いずれも探偵・荊木歓喜が謎解きをする。
 私が気に入ったのは「女狩」。犯人の動機、あるいは心情と言ってもいいと思うが、それは分かる人にしか分からないものである。
 ネタばれになるので詳細は書けないが……とりあえず私は「分かる」クチである。

 長編の「十三角関係」も手が込んでいて面白い。
 女郎屋の女主人が惨殺され、多数の容疑者が浮かび上がる。
 誰からも慕われ、太陽のように明るかった女主人。しかし、どんな親切もアダになることがある。
 犯人に繋がるヒントをひとつ。病気も怪我も多少は本人にも責任があるが、発狂するほどの悲嘆だけは完全に他人のせいである、という意味の文章が心に突き刺さった。
85点

終末のフール

伊坂幸太郎(集英社)

 小惑星が衝突して、地球は滅亡する。タイムリミットはあと三年。残された日々を懸命に、あるいは仕方なく生きる人々を描いた短編集。

 『太陽のシール』に登場する土屋のエピソードが良かった。七歳になる子どもは重い病気を患っていて、自分が逝ったあとのことが心配だった。でも地球が滅亡すると聞いて気が楽になった、という話。
 人類が全員、例外なく一緒に死ぬということは、とてつもなく恐ろしいことではある。が、いっぽうで「残される人」がいないということが、心を軽くする作用もあるようだ。

 この作品を読んで、「自分だったら?」と考えた。あと三年で地球ごと消滅するとしたら? 呆然として何もできなくなるような気がする。毎日を無為に過ごし、ただただ「地球が滅びませんように」とバカみたいに祈るだけの日々になりそうだ。
70点

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