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よしなしごとども 書きつくるなり
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筒井康隆(金の星社)

 「強力わかもと」に付いていたという小冊子。そこに掲載されていた生活の知恵と、他に「伊東家の食卓」で紹介された裏ワザなども。

 知らなかった「知恵」は、とっても得した気分になる。「いつかこれを使うぞ」と心に誓った。
 たとえば「めり込んだトゲをぬく知恵」、「庭一面の雑草を始末する知恵」。
 イラストも昔っぽくて内容に合っている。「よゐこのみんな、ためしませう」という雰囲気。
65点
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恒川光太郎(角川書店)

 今宵は夜市が開かれる……幼いころ、その夜市で野球の才能を買った祐司。ひきかえに弟を売った彼は、はたして弟を取り戻せるのか。

 当たり前ではない世界のことを、ここまで当たり前っぽく書ける筆力には驚いた。そしてストーリー展開の巧みさにも。
 祐司と一緒に夜市に入ってしまったいずみの運命は? 謎の老紳士の正体は? そして何より、彼の弟はどこにいるのか?
 すべての謎は、より合わさって一本の糸になり、やがて解きほぐされる。これをカタルシスと言わずして何と言おうか。

 不思議な夜市は今夜もどこかで……そんな気持ちにさせてくれる一冊であった。
85点

津原泰水(集英社)

 定職にも付かずにブラブラしている猿渡。彼の知人の小説家、「伯爵」。二人が出会う奇妙な事件の数々。
 短編「猫背の女」を紹介しよう。
 猿渡に付きまとう、病的に猫背の女。
 辟易した彼は姿をくらますが、あるときばったり再会してしまう。
 彼女に誘われるままにボートに乗る彼だが、そこで身の毛もよだつ経験をする……。
 

 ラストの3ページ、抜群の臨場感である。女性の狂気の描き方が上手い。
 その他、「埋葬虫」もぞっとする話であった。
85点
 

津村記久子(筑摩書房)

 大学四年のホリガイは、身長175cm、処女。就職先も決まって、暇な日々を過ごしていた。「変わった子」で通っている彼女は、自分の不器用さを持て余していた。あげく、つい無神経な言葉を吐いたりしては周囲を苛立たせるのだった……。

 こんな粗筋を紹介しても、この小説の面白さはちっとも伝わらない、と正直いま焦っている。小さなエピソードが折り重なってだんだんに「読み応え」を作り上げている作品なので、細部を取り上げてもしょうがないのだ。
 では大きなテーマは何か? それはもしかしたら暴力かもしれない。
 虐待を受ける子ども、レイプ、そして主人公自らも幼い頃、同級生に袋叩きにあった経験がある。程度の差はあれど、暴力に屈服せざるを得なかった人々に筆者は焦点を合わせる。そこに憐れみはなく、静かな怒りが渦を巻いている。
 尊厳を踏みにじられる弱き者たちを見過ごすなかれ。筆者のそんな思いを感じた。
90点
寺田寅彦(岩波書店)

 日々の雑記のような随筆集である。
 物知りで理屈っぽい伯父さんが、縁側に座って話すともなく話している、そんな印象を受けた。

 いずれも掌編ともいうべき作品で、細部まで神経が行き渡っていて、箱庭のようにきっちりと収まっている。
 私が気に入ったのは「どんぐり」。夫人の忘れ形見であるおさな子の無邪気な様子が、筆者の喪失感を際立たせている。
80点
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