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私が語りはじめた彼は

三浦しをん(新潮社)

 とある大学の教授である村川。彼はかなりの浮気者であった。彼を巡る人々が織り成す物語……連作短編集。

 村川は最後まで登場せず、他者の口から彼の言動が語られる。その不在が、逆に彼の性質を見事に浮かび上がらせる。
 おそらくは飄々と浮気をしていた村川。周囲のものだけが騒ぎ、うろたえ、憎悪をつのらせる。そのあまりの温度差に驚くばかりであった。
 三浦氏の作品はエッセイしか読んだことがなかったが、こんなにきちんとした文章を読ませてくれるとは思っていなかった。短くて素っ気ない表現のなかに、心に沁み入る珠玉の部分がたくさんあった。
90点
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最悪

奥田英朗(講談社)

 小さな鉄工所の社長・川谷は、騒音問題で近隣から責め立てられていた。銀行員のみどりは、支店長のセクハラや不真面目な妹のことで頭を悩ませていた。チンピラの和也は仲間と働いた盗みがもとで、ヤクザに脅迫される羽目に陥っていた。
 三人の運命がやがて交じり合い、とんでもない犯罪へと落ちてゆく。

 それぞれの生活が丁寧に描かれていて、引き込まれた。特に川谷に襲いかかってくる数々の不運は、リアルで同情を禁じ得なかった。
 ある「事件後」の彼らの逃避行には少し無理があるような気がしたが、その点以外は完璧と言っても過言ではない一冊であった。
95点

極め道

三浦しをん(光文社)

 ウェブマガジンに連載していたエッセイをまとめたのが本書。
 この言い回し、言葉使い、エッセイ系のヒットサイトでよく見かける。ある種、パターンとして定着しているのであろうか。
 とにかく、軽くて辛口で、面白い。

 私が気に入ったのは「恋横車生花実成上」、「動かざること山の如し」、と「女の友情」の出だし。
 あとは漫画に関する話が多くて「女の友情」も後半はほとんど理解不能だった。そういう、内輪ネタのような部分を読むのが少し辛かった。
70点

尾崎翠 集成(上)

尾崎翠、中野翠・編(筑摩書房)

 短編集。なかでも『第七官界彷徨』の評判が良かったので読んでみたのだが……少しも面白くなかった。
 私の読解力の無さが元凶だとは思うが、とにかく延々「この人たちは一体?」と思い続けながら、読んだ。

 主人公である町子が、二人の兄と従兄の住む家で、住み込みで働くことになる。三人の男性は揃いも揃って風変わり。特に町子の二番目の兄・二助はコケの研究のために人糞を部屋で煮詰めたりするのだった……。
 あぁ、粗筋を書くだけでいやになる。みんな不様で自意識過剰でぐだぐだ。これがたとえば金井美恵子氏の作品なら、そこにひとつまみの面白みが感じられるのだが、それも無い。
 編者の中野翠は激賞しているが、私には合わなかった。
45点

われ笑う、ゆえにわれあり

土屋賢二(文藝春秋社)

 東大卒にして大学教授である著者のエッセイ。
 こういう”笑い”は初めて体験した。無駄なインテリジェンスとでも言うべきか。

 筆者は、日常の瑣末な事柄に対して、飽くなき情熱を持って真理(?)を追求する。その姿勢は、哲学者の鑑と言えよう。
 というのは全くの冗談で、筆者が悪ノリして書いているのは「火を見るよりも明らかである」。
 前文の「」の中は、筆者に教えてもらったテクニックのひとつで、説得力に自信が持てないときは、この一文で締めくくるといいらしい。
70点

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