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智慧の実を食べよう 学問は驚きだ。

糸井重里(ぴあ)

 超有名サイト「ほぼ日刊イトイ新聞」のイベントとして行われた講演会で、4人の知識人が語った内容をまとめたのが本書。
 私は常々、誰にでも理解できそうな平易な言葉で、難しいことを語れる人こそ、本当に頭が良い人だと思っている。難しい言葉をこねくり回す人は、頭が良いフリをしているだけだとも思っている。
 その認識と、この本の内容は、見事に合致している。4人の、「知識の最先端」の人たちは、分かりやすく、面白く、難しいことを語っている。
 特に第四幕「日本の行方」が興味深かった。日本の歴史を紐解きながら、今後の日本の有りようを提案しているのだが「美しい国を目指そう」という案は、とても素晴らしいと思った。
80点
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大河の一滴

五木寛之(幻冬舎)

 私には合わない本だった。
 体調が悪い時すぐ病院に行くのが悪いことのように書かれていた。そこが最も納得できなかった。本が手元にないので(読んですぐ古本屋に売っぱらった。普通そんなことしないんだけど)表現が本文とずれてたらすみません。
 小説はそこそこ面白いと思えるのに、エッセイがこれほど合わないとは……。
10点

扉は閉ざされたまま

石持浅海(祥伝社)

 大学の同窓会をするべく、七人の男女が高級ペンションに集まった。
 メンバーの一人である伏見は、そこで後輩の新山を殺害し部屋に閉じ込めた。他の面々はそうとは気付かず、部屋から出てこない新山を気遣うのだが……。

 いけ好かない作品、というのが読んでいる最中の印象だった。
 知的で洗練された男女の会話はこうです、とでも言いたげな型通りの会話がとにかく鼻に付いた。
 ストーリーも納得できなかった。終盤で犯人の動機が明らかになるのだが、それがありえないくらい弱い。そんな理由で後輩を殺したのだとしたら、今後伏見は何度も殺人を犯さずにはいられないのではないだろうか。
 どんなに素晴らしいトリックがあったとしても(この作品のそれが「素晴らしい」かどうかは置いておいて)、動機が脆弱では三流の価値しかない作品としか言いようがない。
40点

木野塚探偵事務所だ

樋口有介(講談社)

 警視庁(でも経理課)を定年退職した木野塚氏は、私立探偵事務所を開設した。
 彼は残りの人生を思いっきりハードボイルドに生きてゆくつもりであったが、思惑どおりにはいかず……。

 これは愉快だ。小心で思い込みが激しくて冴えない木野塚氏は、愛すべき日本のオヤジそのものである。
 多くのたわ言を開陳してくれるが、不思議と憎めない。有能(?)な秘書の桃世とのやりとりもまた笑わせてくれる。
 ただ、桃世の正体が「ありがち」で、ちと残念だった。
75点

怪奇探偵小説傑作選3 久生十蘭集

久生十蘭(筑摩書房)

 十蘭の魅力を存分に味わえる14の作品が収められた一冊。
 私が気に入ったのは『予言』。
 画家である安部は、ふとした誤解が元で石黒という男の恨みをかう。その石黒が、ある予言をした。安部は将来、拳銃自殺をするというのである。
 はじめは一笑に付していた安部だが、予言がことごとく的中してゆくにつれ、絶体絶命の境地に陥ってゆく……。

 いかなる深刻なシーンでも、一種の「軽さ」が失われることがない。安部の飄々とした性格のなせる業でもあろうが、筆者自身が、憂愁に閉ざされることを厭う気配がうかがわれる。
 また、細部にまで神経が行き届いた表現が使われていて、初冬の夕暮れの描写、セザンヌの絵画についての描写など、ぞくぞくするほど素晴らしかった。
85点

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