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忘却の河

福永武彦(新潮社)

 過去に犯した罪に囚われている父。病気で寝たきりの母。控えめで内気な姉。自由奔放で元気な妹。姉をひそかに思う男。五人が次々に語る、苦悩に満ちた内面とは……。

 始めの章の語り手は「父」なのだが、中年オヤジのたわ言といった内容であまり面白くなかった。が、続く姉と妹の章では家族の食い違う気持ちと軋轢が見事に描かれ、その次の母の章では衝撃の過去が語られて、怒涛のごとく面白さが増していった。
 ラストの章は再び父が語り手となるのだが、始めのときとは違って彼のひと言ひと言は傾聴に値するものとなった。「(妻は)ふしあわせな女だった、(略)おれを許してくれ、おれはそういう男なのだ。いつでも、どうにも出来ないでいる男なのだ」……亡き妻に切々と詫びる彼ではあったが、その深い嘆きは行き場のないものであり、いつまでも宙をさまようものとなった。
 しかし最後の最後に、彼は娘たちと心を通わせあって癒しを得る。その輝くようなラストシーンは読み手をも救済するような良い結びであった。
95点
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加田怜太郎全集

福永武彦(扶桑社)

 加田怜太郎というのは福永武彦のペンネームで、アナグラム(並べ替え)で「誰だろうか」となるわけです。この遊び心が良い。とにかく本人が楽しんで書いているというのが滲み出ている作品集。

 内容的には本格派ミステリーというくくりになるのであろうが、なんとも古めかしい感じがする。でもそれもあまり気にならない。私は作品の雰囲気を楽しんだ。
 巻末の「付録」も豪華執筆陣で、読んで損はない。
70点

うつくしい子ども

石田衣良(文藝春秋社)

 中学二年生の幹生。彼の弟カズシが幼女を殺害し、警察に補導される。十三歳の殺人犯に、世間は騒然となる。

 神戸で起きた酒鬼薔薇事件を想起させる設定だが、筆者は事件の表面的なことに目を奪われることなく、新しい観点からこの作品を構築している。
 幹生は転校もせず、悪質なイジメやいやがらせにも屈せずに、弟に対する疑問を解いていこうとする。まっすぐに、真剣に。
 世間の冷たい風によって、彼は皮肉にも人間として大きく成長していくのである。
 ただ、最後に明かされる事実が「よくあるパターン」で少し失望した。
70点

服が掟だ!

石川三千花(文藝春秋社)

 センスが命のお洋服、に関するエッセイ。
 この毒舌ぶりはすごい。そこいらのオバさんから芸能人までメッタ切りである。
 全面的に賛成できる話もある……オジさんが履く餃子のような靴って一体……が、好みの問題でしょ?という話もある。
 まぁここまで熱く語ってこそ、タイトルが活きてくるのだろう。服を元気に着倒している、という方は腕試しに読んでみたら良いのでは。
50点

七人の敵が居た

石川達三(新潮社)

 私はあまりひとりの作家にのめり込まないようにしているが、例外もある。私の本棚の黒いコーナー=太宰治、赤いコーナー=アガサ・クリスティ、そして水色のコーナー=石川達三。一時期ハマっていた。
 その中の一冊。大学教授が教え子を乱暴したとして逮捕される。だがそれは合意の上であったと教授は主張する。はたして真実は?
 この話、実話だそうだ。著者は裁判記録を綿密に調べ上げ、この事件の不明瞭な点を繰り返し繰り返し、それはもうねちっこく書いている。裁判の杜撰さが肌で感じられるほどである。
 日本の政治は腐っているなんてよく耳にするが、日本の司法も腐っているのか!? と暗澹たる気分にさせられた。
70点

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