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よしなしごとども 書きつくるなり
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安岡章太郎(新潮社)

 安岡氏の母方の親族について、系図に基づいて語った随筆。
 筆者が生まれたのが大正9年、そこから父母、祖父母、曽祖父母と遡る話なので、歴史に疎い私にはけっこうつらい読書となった。
 だが筆者が注目した西山麓という漢詩人についての記述は、面白く読むことができた。貧しく怠惰だった麓(ふもと)。遊郭上がりの女性と一緒に暮らしたり、乞食になると決心したり、破天荒な人物だったらしい。
 だが彼の奇行を、安岡氏はあたたかい眼差しで描き出す。彼の漢詩に風流を感じ取り、その才能を認めて賛辞を送るのだった。
60点
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柳田邦男(文藝春秋社)

 中学生の頃から心を病んでいた息子が、二十五歳で自殺を図って脳死状態となる。父親の後悔は、察するに余りある。心の病も長い間気付いてあげられず、自殺も止められなかった。
 そして脳死状態となったとき「臓器提供」の決心を迫られる。しかも奥さんはずっと半病人のようになっていて、もうこれでもかってくらい過酷な人生。それでも作者は淡々と筆を進めていく。
 きっと作者はいろいろなことに決着をつけて、この作品を執筆したのだろう。その、ある種の潔い感じに感銘を受けた。
80点
伊坂幸太郎(東京創元社)

 大学生になりたての椎名は、引っ越してきたアパートで奇妙な青年と出会う。河崎と名乗る彼は、いきなり「書店を襲って広辞苑を奪おう」と持ち掛けてきた。彼の真意を掴みかねた椎名は、取りあえず申し出を断るが……。

 二年前に起きた事件と、現在の出来事がゆっくりと近付いてくる描き方が、とても上手い。
  登場人物も、みな魅力的で飽きさせない。ブータンから来たという優しいドルジ。向う意気が強くて個性的な琴美。飄々として女好きな河崎。唯一、ごく普通な椎名。
 彼らのいきいきとした会話が、ストーリーの奥行きをさらに深めている。
95点
柳家三治(講談社)

 噺家である柳家小三治。小三治は「枕」のほうが面白いってんで出来たのが、この本である。
 枕というのは、落語の本題に入る前に話す、いわばイントロのようなもの。それにしては話が長すぎのようだが、面白ければ問題は無い。

 特に笑えたのが「駐車場物語」。
 彼がオートバイ用に借りていた駐車場に、あるときホームレスの男が住み着いた。男はきれい好きらしく、駐車場にある水道を使っては洗濯をし、箒で駐車場内を掃いたりもする。そんな男に立ち退きを要求することもままならず、ずるずると月日は流れ……。
 ホームレスなのに(?)楽しそうに、礼儀正しく生きる男に振り回される師匠の言動が笑わせてくれる。
 その他、日本の塩がまずいという話や、サンフランシスコの英語学校に留学する話など、さすがに噺家さんは上手いなぁと唸ってしまうような話が盛りだくさんである。
75点
伊坂幸太郎(新潮社)

 強盗をし損ねた伊藤は、気付くと見知らぬ島に連れてこられていた。そこは牡鹿半島の南に位置する島だったが、長らく外界とは隔絶された場所だった。
 住人は奇妙な人ばかり……反対のことしか言わない画家、太りすぎで動けない女性、しゃべるカカシ。そのカカシがばらばらの姿で発見され、島の秩序は乱れはじめる。
 
カカシがしゃべるはずがない、というもっともな考えを、伊藤も抱く。他にも、次々に登場しては好き勝手に振舞う島の住人を、いったんは疑問の目で見る。その彼の行動が「本当らしさ」を醸し出している。
 しかしながら、ストーリーに盛り上がりが乏しく、オチも弱い気がして、全体的に印象の薄い作品だった。

 ここからは個人的な意見だが、「リョコウバト」の話は稲見一良氏の「ダック・コール」の中に、「支倉常長」の話は遠藤周作氏の「侍」の中にあり、そのような作品どうしの繋がりが興味深かった。
65点
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