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天涯の花

宮尾登美子(集英社)

 捨て子だった珠子は、養護施設で育つ。中学を出たとき、剣山に住む宮司の養女となり、人里離れた山奥で生活することとなる。
 数年後、珠子は山で遭難したカメラマンの男を偶然助け、二人はやがて愛し合うようになる。

 ところどころ「この事実が後に珠子を悩ますこととなる」というような前振りがあるため、急かされているような気持ちで読みすすめた。そのへんが上手いというか、あざといというか。
 珠子は恵まれない境遇に育ちながらも、美しく、穢れを知らず、思いやりあふれる女性であった。でも、愛する人が現れた途端、非情ともいえる人間になってしまう。
 その切り替わりが唐突な感じもした。
 乳児と接して、自分も結婚すると決心するあたりも、珠子の人間としての未熟さが見え隠れするようだった。
 いろいろとあげつらってしまったが、この作品は剣山の大自然、とりわけ花の描写が素晴らしく、心が洗われるようだった。
75点
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牛への道

宮沢章夫(新潮社)

 二頁前後のエッセイ集。
 筆者は、きっと日常の「くだらないこと」を愛してやまない方なのであろう。
 こんなことをわざわざ書くのもナンですが、書かずにいられないのです……そんな筆者のつぶやきが聞こえてくるような作品集である。
 しかしながら、笑える話、共感できる話と、全然面白くない話、オチがない話の落差がありすぎではある。
75点

誰か

宮部みゆき(実業之日本社)

 大企業の会長付きの運転手だった梶田が、自転車にひき逃げされて死亡する。彼の二人の娘は、父親の無念を晴らすべく、本を出版することを思い立つ。
 その手助けをすることになる編集者の杉村。彼は、前述の会長の娘婿であった。

 ひと言で表現するなら「そつのない作品」ということになるだろう。富めるものと、ごく中流庶民との対比、性格の異なる姉妹の対比。それを生かす、無理のないストーリー展開。安心して読めた。
 だが、それゆえ何だか物足りなかった。意外性が、あまりないのだ。たとえば着メロの部分など、みえみえの展開であった。
70点

R.P.G.

宮部みゆき(集英社)

 ネット上で擬似家族を演じていた四人。その「おとうさん」が死体となって発見される。警察は残った三人を取調室に呼び、「おとうさん」の実の娘に、三人を面通しさせるが……。

 仮想の世界に救いを求める人々。それは決して間違ったことではない。しかし、とこの作品は主張する。仮想世界に逃げ込んで「現実」をあだやおろそかにするなかれ、と。
 それから「クロスファイア」の石津刑事、「模倣犯」の武上刑事が登場する。二人が心情を吐露する場面は、両作品を既読の場合のほうが、より心に響くであろう。
 ひとつ苦言を呈するなら、一美が携帯電話を使うシーンには疑問を感じた。署内で電話、しないでしょう。
75点

模倣犯

宮部みゆき(小学館)

 公園のゴミ箱から、女性の右腕が発見される。それを皮切りに次々殺人事件が起きる。
 上下巻、千四百ページ、しかも二段組、をたったいま読み終えて、ちょっと放心状態です。しかもその長さを感じさせないストーリー。いや、正直に言うと下巻に入ってからは講釈が多くて、ちょっとダレた。

 小説のかなり早い段階で、誰が犯人なのかが書かれている。だから読んでいるほうも「危ない、そいつに近付くな」「うわっ、ばか!そんなことやってる場合か」なんて、ハラハラし通し。
 そして、宮部氏の作品はいつもそうなのだが、人物描写があまりにリアルで「真一君、元気だしなよ」「ヒロミ、あんただけは許せないぜ」なんて、どっぷりと浸ってしまう。
 ラスト近く、タイトルの「模倣犯」が強烈に生きてくるシーンはかなり痛快で、この長編をここまで読んだ者だけが味わえる醍醐味ね、とひとり悦に入ってしまった。
85点

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