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ここまできてそれなりにわかったこと

五味太郎(講談社)

 筆者は絵本作家として有名だが、こういう本も面白い。百五十個の短いフレーズが載っている。
 その内容は、どれをとっても、手放しで納得できるような一文ばかりであった。
 ふとした瞬間に、こういうことを心の片隅の、そのまた裏側あたりで考えているような気がするのだが、うまく表現できない。それをこうして言葉にしてくれる人がいると「やはりA=Bであったか」と、確認できて嬉しい、そして楽しい。
 絵も言うまでもなくユニークで、そちらを眺めるだけでも楽しい。
80点
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雀の手帖

幸田文(新潮社)

 1月から5月までの100日間、毎日書き続けた随筆。

 何気ない日々を、肩肘張らない筆致で書いていて、寝る前にちょこちょこ読むのにちょうど良い具合の本であった。
 筆者の、言葉がとにかく優しいのである。
 風呂の湯加減はなかなか難しい……「ちゃらっぽこな気持ちややりかた」で失敗しているわけではないのに。
 がさがさの老婆の手……「美しいに越したことはないが、なあに、すっきりしていれば鬼の手は上々だ」。
 2月末、ずいぶん春に近付いた……「遠い汽車の笛などもぷおうと曳くように聞こえる」。
 こういう人と暮らしてみたいな、そうだ、母親だったらいいだろうな、と思わせる随筆であった。
80点

日日の麺麭 / 風貌

小山清(講談社)

 太宰治にその才能を愛されたという筆者の短編集。
 ごく普通の人々の生活を、飾らない、ほとんど素っ気無いと言ってもいいほどの言葉で描いている。静謐で美しい文章である。

 『落穂拾い』、『日日の麺麭』といった短編も素晴らしいのだが、太宰について書いた『風貌』という作品がまた良い。
 筆者が初めて太宰を尋ねて行ったときのこと。
 作品に対する太宰の評……「僕がいいと云えば、天下無敵だよ」。
 金を無心したら、太宰はスズランの花を小切手に同封したという。
 それらのエピソードが、太宰に心酔している私の心には感慨とともに染み入ってきた。
 筆者を思いやる太宰の優しさ。ふとした拍子に見せる茶目っ気のある態度。鬱々として人生を楽しめなかったような印象のある太宰だが、心を開いた相手にはなかなか愛嬌のある人物だったらしい。
90点

五重塔

幸田露伴(岩波書店)

 「木理(もくめ)美しき槻胴(けやきどう)、縁にはわざと赤樫を用ひたる岩畳作りの長火鉢に対(むか)ひて……」
 出だしの一文で、これは読了できそうにない……と私が思ったのも道理ではありますまいか。でも、こういう文章もじっくり読み進むと慣れてきて、ああ美しき哉日本語、と恍惚としてくる。

 粗筋は次の通り。新たに建立されることになった五重塔。一流の大工、源太がその仕事を請け負う事でほぼ決まっていたところに、彼の弟子であるのっそり十兵衛が「自分がやる」と言い出す。腕は良いが「空気」を読めない十兵衛、人格者である源太。二人の対比が際立つ。
 そして建立中に起きる暴風雨。風にしなって、今にも崩壊しそうな五重塔……そんなスリリングな部分もまた楽しめた。
80点

毒舌 身の上相談

今東光(集英社)

 天台宗大僧正、中尊寺貫主、参議院議員、直木賞作家、という今東光氏が、週刊プレイボーイ誌に連載していた人生相談をまとめた一冊。
 「毒舌」と断ってはいるものの、ここまでとは。いやはや度肝を抜かれた。

 好きな女性にいたずら電話を繰り返す男性には「悪いことは言わん。死にな」。
 能力別クラス編成については「大賛成。それは差別ではない、同じ能力のある連中をひとまとめにするんだから、平等もいいところじゃねぇか」。
 なんて具合に、読者の質問をばっさばっさと切り捨てていく。小気味良いったらありゃしない。

 また、川端康成や菊池寛の学生時代の逸話など、興味深い話もいろいろあり、最初の「I 恋愛とセックスの悩み」の部分(あまりに過激)で放り投げなくて良かった、と思った。
55点

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