忍者ブログ

氷壁

井上靖(新潮社)

 登山仲間の小坂と魚津。二人が穂高に登山したとき小坂のザイルが切れて、彼は死んでしまう。
 人妻を愛して苦しんでいた小坂。彼の死は事故か自殺か。

 私は登山というものに全く興味がない。そんな私でさえこの作品には心動かされた。
 山に闘いを挑むものたちの考え方、ひいては生き方に、素直に感動できた。
 ただ、そうは言っても終盤の展開には違和感が残った。こんな悲しい結末にしなくても良かったのではないだろうか。
80点
PR

イバラードの旅

井上直久(講談社)

 いやぁ探した探した。ネット上の本屋に注文すること二回、でもいずれも在庫なし。そうなると余計読みたい! それで、ダメもとで地元の図書館に行ったら、あったんですね、これが。
 何とも不思議な絵本。夢の中で見たような、あるいは異次元のような世界。はたまた、いろんな問題が解決して、良いほうへ転がった未来、のような。
 私が好きなのは16ページの絵。こういう、ただキレイなだけじゃない絵は、私好み。
75点

だりや荘

井上荒野(文藝春秋社)

 両親が事故死し、姉の椿、妹の杏、その夫・迅人はペンション「だりや荘」を切り盛りすることになる。表面は穏やかな生活が始まるが、椿と迅人は道ならぬ恋に落ちてゆく……。

 こんなに読み手を苛つかせる小説も珍しいだろう。妹の夫とも見合い相手の男性とも関係を続ける椿。彼女は美しく危うげで「妖精のよう」と他人に評される。ただの精力絶倫なだけの女性が、妖精とは恐れ入った。
 相手の迅人も、人間として下の下だ。どちらの女性もちゃんと愛していると彼はのたまう。そこには罪悪感の欠片もない。
 加えて、バイトすることになった翼という青年も、ほどなくして杏と関係を結ぶ。揃いも揃って肉欲の権化ではないか。
 ラストも後味の悪いラストで、やっぱり途中で読むのをやめれば良かったと後悔しきりであった。
20点

夏光

乾ルカ(文藝春秋社)

 六つの短編が収められているが、表題作の『夏光』がとても良かった。
 哲彦は疎開先で喬史という少年に出会う。顔に大きな痣がある喬史は皆に疎まれていたが、哲彦は彼が好きだった。あるとき、哲彦は喬史に秘密を打ち明けられる……。

 二人の少年の息遣いが聞こえるような文章である。岩場で海を見ながら話す二人。ひもじさのなかでお菓子を分け合う二人。いじめっこに立ち向かう二人。
 それらの描写が、戦時中という時代の哀しさを伴って胸に迫ってくる。
 どの短編もどこかで聞いたような話なのだが、情景描写の上手さのせいか、はたまたリアリティのある会話のせいか、陳腐さは感じなかった。筆者の描く「子どもの世界」を、もっと読みたいと思った。
80点

ダック・コール

稲見一良(早川書房)

 短編集。いずれも「鳥」が作品のなかで重要な位置を占めている。また、女性はほとんど登場せず、まことに男臭い作品集でもある。
 最初の短編「望遠」を紹介しよう。
 あるビルの写真撮影を任された男。
 ビル建築前の景色を撮っておき、三年後の同じ時刻、同じアングルで建築後の景色を撮る。シャッターチャンスは限定されている。
 が、その瞬間、男の目の前に珍しい鳥が姿を現す。仕事を撮るか、珍鳥を撮るか。
 彼が得たもの、失ったものの対比がすばらしい。それがこの作品の核であろう。
85点

カレンダー

06 2025/07 08
S M T W T F S
1 3 4
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

カテゴリー

フリーエリア

最新コメント

[06/16 まきまき]
[06/16 ぴーの]
[06/10 まきまき]
[06/10 もか]
[06/09 まきまき]

プロフィール

HN:
まきまき
性別:
女性

バーコード

ブログ内検索

P R

カウンター

アクセス解析