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生存者、一名

歌野晶午(祥伝社)

 とある新興宗教の信者五名が、無差別爆破テロを実行し、無人島に逃げる。教祖は暫く経ったら海外へと脱出させてくれると言うが、どうやら彼らはただのスケープゴートだったらしい。

 序盤で「宗教」というものの暗部をあぶり出している。教祖の教えは絶対でそこに疑問を差し挟む余地はなく、服従することに喜びを見出す彼ら。
 その危険性に気付いたときには時すでに遅く、一人、また一人と命を失ってゆく……まったく同情する気にもなれない話である。
 とても短い作品で、まるで長編の下書きを読んでいるような気にもさせられた。しかし、ラストには含みのあるオチが付いていて、小さな余韻が残る作品であった。
65点
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大掴源氏物語 まろ、ん?

小泉吉宏(幻冬舎)

 全五十四帖の源氏物語。一帖を見開き二頁の漫画にしたのが本書。
 漫画の書評を載せることに迷いがあったが「文芸」のベストセラーリストに載っていたので良しとしよう。
 とにかく分かりやすく、が作品のコンセプトだと思うが、それでも誰が誰やら訳がわからなくなってくる。

 しかしながら、この時代の色恋沙汰は、なんて面倒な駆け引きだらけだったことか。
 思いを寄せる女性にはいちいち歌を詠み、しかもセンスのあるものでないと鼻で笑われてしまうのである。
 加えて、身分と立場をわきまえなくてはいけないし、短命だし、常に「出家すること」が頭の片隅にあるし。
 ああ、まろ、大変そう……でも栗顔のまろは恋愛の苦悩さえ楽しんでるように見えてしまうから不思議である。
75点

ここまできてそれなりにわかったこと

五味太郎(講談社)

 筆者は絵本作家として有名だが、こういう本も面白い。百五十個の短いフレーズが載っている。
 その内容は、どれをとっても、手放しで納得できるような一文ばかりであった。
 ふとした瞬間に、こういうことを心の片隅の、そのまた裏側あたりで考えているような気がするのだが、うまく表現できない。それをこうして言葉にしてくれる人がいると「やはりA=Bであったか」と、確認できて嬉しい、そして楽しい。
 絵も言うまでもなくユニークで、そちらを眺めるだけでも楽しい。
80点

雀の手帖

幸田文(新潮社)

 1月から5月までの100日間、毎日書き続けた随筆。

 何気ない日々を、肩肘張らない筆致で書いていて、寝る前にちょこちょこ読むのにちょうど良い具合の本であった。
 筆者の、言葉がとにかく優しいのである。
 風呂の湯加減はなかなか難しい……「ちゃらっぽこな気持ちややりかた」で失敗しているわけではないのに。
 がさがさの老婆の手……「美しいに越したことはないが、なあに、すっきりしていれば鬼の手は上々だ」。
 2月末、ずいぶん春に近付いた……「遠い汽車の笛などもぷおうと曳くように聞こえる」。
 こういう人と暮らしてみたいな、そうだ、母親だったらいいだろうな、と思わせる随筆であった。
80点

日日の麺麭 / 風貌

小山清(講談社)

 太宰治にその才能を愛されたという筆者の短編集。
 ごく普通の人々の生活を、飾らない、ほとんど素っ気無いと言ってもいいほどの言葉で描いている。静謐で美しい文章である。

 『落穂拾い』、『日日の麺麭』といった短編も素晴らしいのだが、太宰について書いた『風貌』という作品がまた良い。
 筆者が初めて太宰を尋ねて行ったときのこと。
 作品に対する太宰の評……「僕がいいと云えば、天下無敵だよ」。
 金を無心したら、太宰はスズランの花を小切手に同封したという。
 それらのエピソードが、太宰に心酔している私の心には感慨とともに染み入ってきた。
 筆者を思いやる太宰の優しさ。ふとした拍子に見せる茶目っ気のある態度。鬱々として人生を楽しめなかったような印象のある太宰だが、心を開いた相手にはなかなか愛嬌のある人物だったらしい。
90点

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