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よしなしごとども 書きつくるなり
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マイケル・ギルバート(東京創元社)

 時は第二次世界大戦中。イタリアの捕虜収容所では、英国の捕虜たちが、脱走すべく密かにトンネルを掘り進めていた。ところがそのトンネル内で崩落が起き、一人の捕虜が死亡してしまう。はたして彼の死は事故だったのだろうか。

 「登場人物」のページが三ページにもわたっており、しょっぱなからうんざりだった。しかも、それぞれの役柄をよく把握することが、ストーリーを理解する上で必須なのである。それを怠ると、謎解きのところで疑問だらけになる……私のように。
 そういう私の頭の悪さを差し引いても、面白い作品とは言えない気がした。終盤の大脱走劇のあたりは多少スリルがあったが、そこで謎を解いて終わりにしたほうが良かったと思う。
 15、16章は蛇足ではないだろうか。
55点
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フレッド・カサック(東京創元社)

 二つの中編が収められている。
 私は表題作より「連鎖反応」のほうが気に入ったのでそちらを紹介したいと思う。
 観光協会に勤めるジルベール。彼には可愛い婚約者がいたが、以前から付き合っていた女性が妊娠してしまう。彼は、より多くの収入を得るために昇進したいと強く願う。そのために上司を殺す計画を練るが……。

 ジルベールが虎視眈々と殺人の機会を狙って苛立つ様子がうまく描かれている。「ミステリ小説で読んだのとは大違い」だと嘆く彼は、罪を犯そうとしているのに「最善を尽くす」とのたまう。その勘違い加減が笑える。
 ラストのエピローグもひねりが効いていて良い。
75点
コーマック・マッカーシー(早川書房)

 舞台は(おそらく)核戦争後の地球。廃墟のなか、父と息子は南を目指して旅をする。カートに必要最小限のものを詰めて。生物はほとんどいないが、生き残りの人間同士が出会うと死闘は必至だった。そこでは人肉も貴重な食料だったから……。

 確かなあてもなく、ただ父と息子が歩いていく話。こう書くと退屈そうだが、どっこい手に汗握るストーリーで最後まで飽きるということがなかった。
 まず息子の善良さに心を打たれた。ときには非道を働こうとする父を、彼はあふれる涙で抑止する。荒みきった世界にあって、彼の純粋さはひときわ際立つ。
 それから父と息子の静かなやりとりが良い。
 ……ぼくたちは今でも善い者なの? ああ。今でも善い者だ。 これからもずっとそうだよね。 そう。これからもずっとそうだ。 わかった。
 短い文に込められている、二人のたくさんの想いと願い。どうぞそれらを踏みにじらないでと、この物語の世界には存在しない、するわけがない神にすがりたくなるほどだった。
90点
アンソニー・ドーア(新潮社)

 八つの短編が収められている。
 それぞれが主人公の年齢も違うし、物語の舞台も違うし、作品から受ける印象も違う。だが、いずれも根幹を成すテーマは、大自然に対するあこがれと恐怖である。

 『たくさんのチャンス』。
 14歳のドロテアは海沿いのメイン州に引っ越してくる。そこで釣りをする少年と出会い、彼から釣りを教えてもらう。だが母親に会うことを禁止され……。
 ドロテアが次第にフライフィッシングの腕を上げてゆく様子、彼女が過ごす海辺の景色、がいきいきと描かれている。夕日が沈む瞬間、彼女が水面にフライを落とす。その奇跡のような一瞬。短いセンテンスに自然の美しさがみなぎる。

 『7月4日』。
 スポーツフィッシング愛好家のイギリス人たちと、元実業家のアメリカ人たちが釣り対決をすることになる。苦戦を強いられるアメリカチームの言動が、笑わせてくれる。
80点
ジャン=ジャック・フィシュテル(東京創元社)

 主人公は、出版社社長。彼が若かりし頃、とある娘と親密になるも、娘は何者かによって殺害されてしまう。娘の死の原因は、彼が面倒をみてやっていた作家の、下劣な行為にあった。それを知った彼は、作家を罠にはめる。

 前半が、なんとも退屈で参った。まわりくどい文章で、さっぱり頭に入ってこない。でも主人公が復讐の幕を切って落としてからは、がぜん面白くなった。その方法、タイミング……おぬしも悪よのぉ、と思わずにやり。
 本が人を殺すなんて、斬新で、ぞくぞくした。
70点
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