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よしなしごとども 書きつくるなり
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ジョナサン・キャロル(東京創元社)

 短編集。表題作もいいが『おやおや町』が面白かった。
 シルヴァー夫妻のところに、新しい掃除婦・ビーニィがやってきた。彼女は掃除の天才だった。地下室や車庫で、彼女は忘れ去られていたいろいろな物を見付けてきては、夫妻に聞くのだった。「これは?(どう処分しましょうか)」。
 初めは面白がっていた夫妻だが、ビーニィが「あるはずのない物」を差し出してきたとき、主人のスコットはある疑念を抱く……。
 ビーニィがその正体を明かしてからの展開が凄まじい。彼女はスコットに、彼の子供たちの「現実」を見せ付ける。見るに耐えないような現実を。スコットの絶望は察するに余りある。
 さらにラストで明かされる、驚愕の事実。「だから今、世界はこうなのか」と、思わず納得しそうになった。

 余談だが。
 この作品集、翻訳がどうも気に入らなかった。「……写ってた」「……冷めてった」といった「い」抜き言葉が目に付いて仕方がなかった。
80点
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岡崎照男・訳(立風書房)

 サモア人の酋長であるツイアビの演説集。「パパラギ」とは白人のこと。そのパパラギが、いかに愚かで貧しい存在かを熱く、しかし静かに語っている。

 思わず微笑してしまう表現も。「……この皮で、パパラギは、ちょうど足がはいるくらいの、ふちの高い小さなカヌーを作る。一つのカヌーを右足に……」。靴のことである。
 しかし、笑っていられない話のほうが断然多い。たとえば、気持ちの良い天気の日に「あぁ素晴らしい!太陽が輝いている」と思ったりする。でもそれは変だ、と彼は言う。何も考えず、手足を自由に伸ばして美しい空気を楽しめば良い、と。いちいち考えることはある種「病気」だと。

 ここまで文明が進んだ現代、はたしてこの文明の方向性は正当であるのか、もう誰にも判断はできないだろう。でも人間はあらゆる意味において「過剰」だと思う。いつか誰かの逆鱗に触れて初期化されてしまいそうで怖い。
85点
J・K・ローリング(静山社)

 このての物語って、読むのに結構エネルギーがいると思う。すべては架空の話。魔法も魔法使いの学校もクィディッチの試合も。想像力全開で読まなくてはならず、これは映像になったほうが楽かな、とも思ったりする。
 主人公が最初はとても惨めな状況にあって、でも本当は他を圧倒する力を持っていて、最後には……という定石どおりの物語ではあるが、つい引き込まれて読んじまいました。
85点
ジャック・ロンドン(スイッチ・パブリッシング)

 短編集。九つの短編が収められている。
 表題作の『火を熾す』。氷点下六十度近い極寒のなか、男と一匹の犬は野営地を目指して歩いていた。容赦の無い寒さが彼らを襲う。湧き水で濡らしてしまった足を温めようと男は火を熾すが……。

  刻一刻と身体が凍り付いていく恐怖を、筆者はゆっくりと存分に味わわせてくれる。初めは余裕を持っていた男が、次第に死の影に怯えるようになり、最後に絶望するさまは実にリアリティーがあった。
  男に同行する犬が、ストーリーに厚みを与えている。基本的に命令には従うのだが「この寒さは危険だ」という原始からの記憶が犬を立ち止まらせる。その獣たる姿、息遣いを筆者は鮮明に描き出してくれている。
85点
パウロ・コエーリョ(角川書店)

 老いへの不安、自分の無力さに対する絶望感などから、ベロニカは自殺を図る。
 が、それは失敗に終わり、彼女は精神病院に入院させられる。そこで彼女はいろいろな入院患者と出会い、生きることの意味を自らに問い直すのだった……。

 暗い精神世界に引きずり込まれそうな作品である。
 「狂うってどういうことなの?」と問い掛けてくるベロニカ。映画館で、仕事場で、パニックの症状に襲われる弁護士のマリー。両親の過大な期待に応えられず、多重人格者となったエドアード。彼らの恐怖感や焦燥感が、じわじわとこちらにも伝わってきて、息苦しくなった。
 とりわけ、ベロニカがある方法によって性的な開放感を得る部分は、息苦しさを通り越して、薄気味悪かった。
 精神的に疲れているときには読まないほうがいい作品かもしれない。
60点
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