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恥辱

J.M.クッツェー(早川書房)

 筆者は2003年にノーベル文学賞を受賞、ということで小難しい作品なのかと思ったら、そんなことはなかった。
 52歳の大学教授が教え子に手を出し、人生まっ逆さま、そんなストーリーである。彼の絶倫ぶりに驚くと同時に辟易させられた(誘いに乗るほうも乗るほうなのだが)。

 しかしながら、本書の「言いたいこと」は、どうやら彼のその後、にあるようだ。
 セクハラで訴えられた彼は大学を追われ、片田舎に住む娘のところに転がり込む。農園を切り盛りする娘は、自給自足しながら底辺の暮らしをしていた。当初それを新鮮に感じた彼だが、やがてひとつの事件が起き、平穏な生活は一気に崩れる。
 この後半部分の、娘と娘を取りまく人々には、まったくいらいらさせられた。事なかれ主義とも違う、雑で曖昧な生き方。あらゆる事実に背を向ける姿勢が、信じ難かった。

 こんな書き方だと、まるで嫌な作品のようだが、エロティックなシーンにどぎつさはなく、突き放すような文章も良かった。読了感は悪くはない。
75点
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中二階

ニコルソン・ベイカー(白水社)

 サラリーマンらしきある男が、会社の昼休みに買い物などを済ませて、エスカレーターで中二階にあるオフィスに戻ろうとしている。そのエスカレーター上の数十秒間の彼の思考が、まるまる一冊の本になってしまった。

 こんな風変わりな小説は初めて! 場面が、エスカレーターから金輪際動かない(もっとも彼の思考はあちこち飛びまくるのだが)のも驚いたが、長い長い注釈にも驚いた。それが作品の半分くらいを占めているのだが、本文を読んでは注釈を読み……という作業は、字が小さいのも相まっていささか疲れた。

 彼の微に入り細を穿つ思考は、ときに小気味良かった。ポップコーンの意外性に同意し、製氷皿の歴史のくだりではノスタルジーに浸った。
60点

超訳 ニーチェの言葉

フリードリヒ・ニーチェ(ディスカバー・トゥエンティワン)

 ニーチェなんて読んでしまいました、すみません。
 1ページにひとつずつ、平易な言葉でニーチェの言葉が書かれているのだが、そこにはやはり深い思想やら洞察やらが含まれているのであろう。それを理解できたか? と問われたら甚だ心もとないから、つい謝ってしまった。
 閑話休題。
 心に響いたいくつかの言葉を書いておきたいと思う。

 「他人をあれこれと判断しないこと。他人の値踏みもしないこと。人の噂話もしないこと。……(略)こういう点に、良き人間性のしるしがある」
 む、難しい。でも心掛けたい。

 「きちんと考える人になりたいのであれば、最低でも次の三条件が必要になる。人づきあいをすること。書物を読むこと。情熱を持つこと」
 私には、ひとつめの条件のハードルが高い。

 それから、たぶんニーチェが最も望まないであろうことが、読んでる間中脳裏をよぎって仕方がなかった。
 「まったくその通り、この一説を、あのおたんこなすに読ませたい!」。
 ……他人はいいから、まず自分の行いを振り返れって話。
80点

冷たい水の中の小さな太陽

フランソワーズ・サガン(新潮社)

 新聞社に勤める美しいジルは、突然ノイローゼになる。彼は同棲中の恋人をパリに残して、姉のいる田舎に静養しに行く。そこで美貌の人妻ナタリーと出会い、恋に落ちる。
 と、粗筋を書いただけでも虚脱感を感じる作品である。
 ジルは、軽薄で浪費家で猜疑心が強く、彼を愛するものを傷つけずにはいられない人間であった。
 自分の愛するものが、自分より聡明だったり、自分を批判したりすると、とたんに不機嫌になる彼。まったく器が小さい男である。
 ラストで起きる「事件」は衝撃的だったが、少し安易な気もした。
50点

停電の夜に

ジュンパ・ラヒリ(新潮社)

 九つの短編が載っているが、私が好きなのは、まず「停電の夜に」。
 妻が死産したことによって夫婦仲が冷え切ってしまった男女。二人は停電の夜ごと、秘密を打ち明けあうことにした。カンニングしたことがある、そんな他愛のない話。そして最後の夜……。
 夫が妻を描写するときの目線がかなりシビア。家で寛いではいけないということか。

 次に「三度目で最後の大陸」。結婚を期にアメリカへ移住したインド人の男が、ほんの数週間とある家に下宿することになった。そこには百三歳の老婆が一人で暮らしていた。気難しいが優しい老婆。男は、老婆と離れてしまってから彼女の「良さ」に気付かされる。
 どの作品も何の変哲もないことを、味わい深く描き出している。
80点

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