ジャン・ジオノ(こぐま社)
第一次大戦の直前、「私」は、プロヴァンス地方の高地で、とある羊飼いと出会った。
家族もなく、一人で暮らす彼は、ドングリを荒地に植えていた。三年で十万個のドングリを植えたという彼は、その後もずっとそれをし続けた……。
たった一人の、何の力も持たない人間が成し遂げたことの大きさに、心を打たれた。文中にある「(羊飼いの)倦まずたゆまず与えつづける美しい行為」という表現がとても良いと思った。彼の無私な精神を、端的に言い表している。
難点を一つ挙げるなら、この本の体裁であろうか。話のボリュームは小冊子サイズなのに、ハードカバー、しかもこの値段はいかがなものか。
70点
第一次大戦の直前、「私」は、プロヴァンス地方の高地で、とある羊飼いと出会った。
家族もなく、一人で暮らす彼は、ドングリを荒地に植えていた。三年で十万個のドングリを植えたという彼は、その後もずっとそれをし続けた……。
たった一人の、何の力も持たない人間が成し遂げたことの大きさに、心を打たれた。文中にある「(羊飼いの)倦まずたゆまず与えつづける美しい行為」という表現がとても良いと思った。彼の無私な精神を、端的に言い表している。
難点を一つ挙げるなら、この本の体裁であろうか。話のボリュームは小冊子サイズなのに、ハードカバー、しかもこの値段はいかがなものか。
70点
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ジャック・リッチー(晶文社)
17の短編が収められているが『歳はいくつだ』がよかった。
街にはびこる冷淡で無礼な人々。彼らはある男にこう尋ねられる。「歳はいくつだ?」。
「罪」に対する「罰」が重過ぎる。なんて固いことは言いっこなし、主人公の懲悪っぷりには胸がすく思いだった。だいたいこういう失礼な輩は、今までも、そしてこれからも罪を重ねていくこと必至、だったら早めに成敗したほうが良い。
他に、タイムマシンで殺人の現場を見られた男が、そのタイムマシンを手に入れようとするが……表題作『クライム・マシン』や、刑務所に入るために殺人を犯した男の末路を描いた『殺人哲学者』も面白かった。
85点
17の短編が収められているが『歳はいくつだ』がよかった。
街にはびこる冷淡で無礼な人々。彼らはある男にこう尋ねられる。「歳はいくつだ?」。
「罪」に対する「罰」が重過ぎる。なんて固いことは言いっこなし、主人公の懲悪っぷりには胸がすく思いだった。だいたいこういう失礼な輩は、今までも、そしてこれからも罪を重ねていくこと必至、だったら早めに成敗したほうが良い。
他に、タイムマシンで殺人の現場を見られた男が、そのタイムマシンを手に入れようとするが……表題作『クライム・マシン』や、刑務所に入るために殺人を犯した男の末路を描いた『殺人哲学者』も面白かった。
85点
アガサ・クリスチィ(東京創元社)
世にクリスティーの作品数々あれど、私が読んだ彼女の作品は何十冊もあれど、私のイチオシはこれに収められている「うぐいす荘」である。マイナーな目立たない短編ではあるが、クライマックスでの私の心臓バクバク度はこれが一番だった。
自分の夫が殺人鬼だと気付いてしまった妻、その瞬間外出先から戻ってきた夫はシャベルを手にしていた。妻を殺害した後に埋める穴を掘るためのシャベルを。絶体絶命の妻がとった行動とは。
追伸。この小説、他の出版社では「ナイチンゲール荘」という名前になっているようです。
100点
世にクリスティーの作品数々あれど、私が読んだ彼女の作品は何十冊もあれど、私のイチオシはこれに収められている「うぐいす荘」である。マイナーな目立たない短編ではあるが、クライマックスでの私の心臓バクバク度はこれが一番だった。
自分の夫が殺人鬼だと気付いてしまった妻、その瞬間外出先から戻ってきた夫はシャベルを手にしていた。妻を殺害した後に埋める穴を掘るためのシャベルを。絶体絶命の妻がとった行動とは。
追伸。この小説、他の出版社では「ナイチンゲール荘」という名前になっているようです。
100点
パオロ・マウレンシグ(草思社)
「私」は、あるオークションで、名器と呼ばれるバイオリンを落札する。
ほどなくして、そのバイオリンの元の所有者に会ったことがあるという、小説家の男が訪ねてくる。男の話によると、その所有者というのは、天才的バイオリニストだったという……。
物語のメインは、天才的バイオリニスト・イエーネによる語りの部分である。
13歳で入学した音楽学校の、非人道的な厳しさ。ある女流バイオリニストに対する思慕の念。さらには音楽学校で出会った少年・クーノに対する感情。それらがキリキリと締め付けられるような緊迫感を伴って、綿密に描かれている。
なかでも、貴族としての確固たる後ろ盾があるクーノに対する羨望、あるいは嫉妬は、痛いほど伝わってきた。
ラストの種明かしは少し分かりづらく、読了したときに「あの人はどうなった?」という疑問も残ったが、ストーリー全体を流れる雰囲気がとても良い作品だった。
80点
「私」は、あるオークションで、名器と呼ばれるバイオリンを落札する。
ほどなくして、そのバイオリンの元の所有者に会ったことがあるという、小説家の男が訪ねてくる。男の話によると、その所有者というのは、天才的バイオリニストだったという……。
物語のメインは、天才的バイオリニスト・イエーネによる語りの部分である。
13歳で入学した音楽学校の、非人道的な厳しさ。ある女流バイオリニストに対する思慕の念。さらには音楽学校で出会った少年・クーノに対する感情。それらがキリキリと締め付けられるような緊迫感を伴って、綿密に描かれている。
なかでも、貴族としての確固たる後ろ盾があるクーノに対する羨望、あるいは嫉妬は、痛いほど伝わってきた。
ラストの種明かしは少し分かりづらく、読了したときに「あの人はどうなった?」という疑問も残ったが、ストーリー全体を流れる雰囲気がとても良い作品だった。
80点
トーマス・オーウェン(東京創元社)
短編集。サブタイトルどおり「十四の不気味な物語」が収められている。『亡霊への憐れみ』が良かった。
四人の男女が、面白半分に見知らぬ墓を暴いた。死体を目の当たりにした「わたし」は、恐ろしさに震える。そしてその晩、宿で眠る「わたし」の部屋のドアを、何者かがノックした……。
他の作品もそうなのだが、似たようなストーリーは、もう何度も読んだ気がする。だがスタンダードな、普遍的な恐怖というものがうまく描かれているので、充分楽しむことができた。
日常が、ふとした瞬間に異常さをはらむ。気付いたときには手遅れになっている。そんな気味の悪さが幻想的に描かれている十四編であった。
80点
短編集。サブタイトルどおり「十四の不気味な物語」が収められている。『亡霊への憐れみ』が良かった。
四人の男女が、面白半分に見知らぬ墓を暴いた。死体を目の当たりにした「わたし」は、恐ろしさに震える。そしてその晩、宿で眠る「わたし」の部屋のドアを、何者かがノックした……。
他の作品もそうなのだが、似たようなストーリーは、もう何度も読んだ気がする。だがスタンダードな、普遍的な恐怖というものがうまく描かれているので、充分楽しむことができた。
日常が、ふとした瞬間に異常さをはらむ。気付いたときには手遅れになっている。そんな気味の悪さが幻想的に描かれている十四編であった。
80点