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よしなしごとども 書きつくるなり
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宮部みゆき(小学館)

 公園のゴミ箱から、女性の右腕が発見される。それを皮切りに次々殺人事件が起きる。
 上下巻、千四百ページ、しかも二段組、をたったいま読み終えて、ちょっと放心状態です。しかもその長さを感じさせないストーリー。いや、正直に言うと下巻に入ってからは講釈が多くて、ちょっとダレた。

 小説のかなり早い段階で、誰が犯人なのかが書かれている。だから読んでいるほうも「危ない、そいつに近付くな」「うわっ、ばか!そんなことやってる場合か」なんて、ハラハラし通し。
 そして、宮部氏の作品はいつもそうなのだが、人物描写があまりにリアルで「真一君、元気だしなよ」「ヒロミ、あんただけは許せないぜ」なんて、どっぷりと浸ってしまう。
 ラスト近く、タイトルの「模倣犯」が強烈に生きてくるシーンはかなり痛快で、この長編をここまで読んだ者だけが味わえる醍醐味ね、とひとり悦に入ってしまった。
85点
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宮部みゆき(双葉社)

 言わずと知れたカード破産の話。「偶然」がひとつのキーワードになっているが、全然無理がない。
 舞台設定、人物設定が細部まで考え抜かれていて、傑作だと思う。
 印象的だった部分をひとつ。換気扇をガソリンできれいにするという話。そこまでしてきれいにしたい人が世の中にはいるんですね。
90点
宮部みゆき(光文社)

 「お財布」が語り手となって登場人物の行動が明らかになるという手法。下品な人間はお財布も下品、この辺の設定はうなづける。
 でも犯人は……推理小説の掟、犯人は物語の中で主要な登場人物の中にいなければいけない……に抵触しているのでは。その点において、少しだけ違和感があった。
75点
宮本輝(新潮社)

 いろんな内容がぎっしり詰まった、幕の内弁当みたいな小説。まず、往復書簡による文章(これがとても効果的に主人公二人の心情を吐露させている)。他には思い付くままに挙げると、無理心中、十数年後の再会、障害を持つ子供、モーツアルトの流れる喫茶店、スーパーの女店員……。
 何についてここに書くのが適当であろうか? 二人の主人公の愛について? 無理心中を図った女性の業について?
 これは柄じゃないので、いつものでたらめ書評的に話を進めると……主人公亜紀の父親の告白部分が良い。「好きな女がおるんや」……男はいくつになっても美しい女性に弱いらしい。全体的に悲しいトーンのこの小説のなかで、数少ない心和むシーンである。
85点
向田邦子(文藝春秋社)

 戦前。妻と娘、そして父親と質素に暮らす水田。見栄えが悪く無骨な彼だが、その妻たみは、なかなか出来た妻であった。
 一方水田の友人である門倉は、中小企業の社長で羽振りが良く、華がある性格で、女性関係も派手だ。
 そんな正反対の二人だが、なぜかウマが合い、男同士の友情で結ばれていた。しかしまた、二人は気付いてもいた。門倉が、水田の妻たみに密かに想いを寄せていることに……。

 戦前の日本の様子など、もちろんこの目で見たことはないが、この作品を読むとその頃の庶民の暮らしぶりが本当に良く分かる。筆者が脚本家でもあるせいか、ひとつひとつのシーンが、映像として浮かんでくるようである。
85点
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