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よしなしごとども 書きつくるなり
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恒川光太郎(角川書店)

 今宵は夜市が開かれる……幼いころ、その夜市で野球の才能を買った祐司。ひきかえに弟を売った彼は、はたして弟を取り戻せるのか。

 当たり前ではない世界のことを、ここまで当たり前っぽく書ける筆力には驚いた。そしてストーリー展開の巧みさにも。
 祐司と一緒に夜市に入ってしまったいずみの運命は? 謎の老紳士の正体は? そして何より、彼の弟はどこにいるのか?
 すべての謎は、より合わさって一本の糸になり、やがて解きほぐされる。これをカタルシスと言わずして何と言おうか。

 不思議な夜市は今夜もどこかで……そんな気持ちにさせてくれる一冊であった。
85点
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津原泰水(集英社)

 定職にも付かずにブラブラしている猿渡。彼の知人の小説家、「伯爵」。二人が出会う奇妙な事件の数々。
 短編「猫背の女」を紹介しよう。
 猿渡に付きまとう、病的に猫背の女。
 辟易した彼は姿をくらますが、あるときばったり再会してしまう。
 彼女に誘われるままにボートに乗る彼だが、そこで身の毛もよだつ経験をする……。
 

 ラストの3ページ、抜群の臨場感である。女性の狂気の描き方が上手い。
 その他、「埋葬虫」もぞっとする話であった。
85点
 

津村記久子(筑摩書房)

 大学四年のホリガイは、身長175cm、処女。就職先も決まって、暇な日々を過ごしていた。「変わった子」で通っている彼女は、自分の不器用さを持て余していた。あげく、つい無神経な言葉を吐いたりしては周囲を苛立たせるのだった……。

 こんな粗筋を紹介しても、この小説の面白さはちっとも伝わらない、と正直いま焦っている。小さなエピソードが折り重なってだんだんに「読み応え」を作り上げている作品なので、細部を取り上げてもしょうがないのだ。
 では大きなテーマは何か? それはもしかしたら暴力かもしれない。
 虐待を受ける子ども、レイプ、そして主人公自らも幼い頃、同級生に袋叩きにあった経験がある。程度の差はあれど、暴力に屈服せざるを得なかった人々に筆者は焦点を合わせる。そこに憐れみはなく、静かな怒りが渦を巻いている。
 尊厳を踏みにじられる弱き者たちを見過ごすなかれ。筆者のそんな思いを感じた。
90点
寺田寅彦(岩波書店)

 日々の雑記のような随筆集である。
 物知りで理屈っぽい伯父さんが、縁側に座って話すともなく話している、そんな印象を受けた。

 いずれも掌編ともいうべき作品で、細部まで神経が行き渡っていて、箱庭のようにきっちりと収まっている。
 私が気に入ったのは「どんぐり」。夫人の忘れ形見であるおさな子の無邪気な様子が、筆者の喪失感を際立たせている。
80点
天童荒太(文藝春秋社)

 筆者が『悼む人』を執筆するにあたり、主人公・静人の心情に近付こうと三年間にわたって書いた、「静人」の日記。
 読もうか読むまいか散々迷って、結局読んだ。寝る前に、毎日毎日いろんな人の死に様を読んだ。新聞や人づてに知る死、その多くは非業の死である。読んでいて気分が良いわけがない。
 でも何らかの結論というか、意味付けというか、そういうものが最後には用意されているのかと思い、読み続けた。
 以下ネタバレ(?)あり

  が、決定打は何も書かれていなかった。それどころか、終盤で登場するある女性が、静人に数々の疑問や助言を投げ掛けるのだが、彼は、まず「反論ありき」といった態度で、彼女の(あるいは読者の、と言い換えても良いかもしれない)言葉には耳を貸さなかった。
  そこまで読んで、ようやく私も気付いた、彼は傲慢だと。神の使いにでもなったつもりかと彼に詰め寄りたい心境になった。

  唯一無二の命は、静人のそれだって同じはずなのに、彼は自分の命、人生は軽んじている。そこに大きな矛盾を感じた。

70点
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