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よしなしごとども 書きつくるなり
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大崎善生(文藝春秋社)

 邦人男女、ドナウ川で心中。そんな新聞記事に導かれて、大崎氏がヨーロッパを旅する。33歳の自称指揮者の千葉と、19歳の女子大生、日実(カミ)に、一体何が起こったのかを描くノンフィクション。

 やりきれない物語であった。千葉という男性は虚言癖や妄想癖があって、ろくな人間ではないのである。一方日実は、繊細で美しく、お金持ちのお嬢様。そんな二人が出会い、恋に落ちる。日実は千葉にのめり込み、彼の嘘に気付きながらも、まるで母親のように愛情で包み込む。
 だが果たしてそれは「愛」なのだろうか。憐憫や同情じゃないと言い切れるのだろうか。そんな疑問が私の中でずっと渦巻いていた。
 ぶざまで情けない男性に対して「私が何とかしなければ」と思い込む日実のような女性が世の中にはいるようだが、それは相手のためにもならないと私は思う。そういう男性は放って置けばよいのだ、ただの甘ちゃんなのだから。

 この作品、読んでいる間は、まるでミステリーのように早く先が知りたくて仕方がなかった。でも読後感はかなり悪かった。うんざりしたと言っても過言ではない程に。
80点
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大崎善生(角川書店)

 アダルト雑誌の編集者である山崎。彼のもとに、あるとき一本の電話が入る。それは19年前、彼が学生の頃に出会って別れた、由希子からの電話だった。
 偶然出会って、やがて悲劇的な別れ方をしたふたり。山崎の胸に、思い出が蘇る。

 山崎が、精神を病んでしまった友人に、記憶について語る部分が秀逸だった。
 若い頃は己の感性を振り回して、他人に暴言を吐いた。それは何年経っても心から消えることはなく、後悔に苛まれる。だがやってしまったことは消せないのだから、記憶とうまく共存してゆくほかはない。そう彼は語る。
 単純だけれど、説得力のある彼のセリフには共感することができた。
 それから、小道具の使い方もうまい。どこまでも透明で静かなアクアリウム。二匹のチワワ。淡いレモン色のワンピース。映像で見せられたかのように、光景が目に浮かんできた。
90点
大海赫(ブッキング)

 復刊ドットコムというサイトによって復刊が実現したという本書。
 あるとき、盲目の「ぼく」の目が、急に見えるようになった。そして目が見えていたひとは、残らず盲目になっていた。驚くぼくの耳に、サイレンが鳴り響く。「敵」が攻めてきているという。ぼくとおかあさんは汽車で逃げることにしたのだが、その車中で不思議な少女に出会う……。

 絵本なのだが、子供が見たら怖い夢を見そうなタッチの絵である。ストーリーも残酷な部分もあり、ラストも決してハッピーエンドではない。
 でもこの世の理不尽さとか、不公平感などを、ド迫力の絵でもって語り掛けてくれているようでもある。
 巻末にある解説では、悲しくてすばらしい話、とよしもとばなな氏も熱いメッセージを書かれている。
75点
遠藤周作(新潮社)

 短編集だが、エッセイのようでもありフィクションのようでもあり。
 一番衝撃的だったのは「六十歳の男」という作品。この中で六十歳を過ぎた男が、この歳になっても死の恐怖に襲われることがあるというくだりがある。歳をとるに従って「諦観」というか「もう充分」という気持ちになるのかと思っていたのだが、そうでもないらしい。むしろ若い頃より確実に死に近いわけで、怖さ倍増、その恐怖感はより具体的なのかも。
60点
遠藤周作(新潮社)

 切支丹が激しく弾圧されていた時代、遠くポルトガルから、命からがら日本へとやってきた司祭、ロドリゴ。彼もやがては囚われの身となってしまう。最後の瞬間、彼は踏み絵を踏むのか否か。

 宗教についてここまで考えさせられたことは、未だかつてなかったように思う。
 棄教を迫られ、自らの命が危険に晒されても信仰を捨てない信徒たち。だがどんなに苦しんでも悲しんでも神は「沈黙」しているのである。それはなぜか。
 神とはひたすら「感謝」を捧げるためだけの存在なのか。それ以前に、存在として捉えていいのか。
 無宗教の私には重すぎるテーマではあった。だが心を打つ素晴らしい作品であったことは間違いない。
90点
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