忍者ブログ

密やかな結晶

小川洋子(講談社)

 小説家である「わたし」は、物体と共に記憶をも消滅し続ける奇妙な島に住んでいる。
 彼女は、記憶を失わない編集者のR氏を自宅にかくまうことになる。その特性を持つ者は、秘密警察に捕らえられてしまうからだ。

 この本だけ特別な活字で組んであるのかと思ってしまった。それくらい文字が美しく見える作品なのである。
 島の人々は、抗えない運命を淡々と受け入れてい、「在るもの」だけでなんとか生きていこうとしている。
 そのあまりの静けさに、ときに苛立ちさえ覚えた。しかし次第に、彼らなりの身の処し方に納得させられ、ラストの圧倒的な寂寥感もすんなり受け入れられた。
85点
PR

小川未明童話集

小川未明(新潮社)

 25の童話が収められている。説教くさい話は少なくて、淡々と出来事を書き綴った作品が多い。

 有名な陶器師が、殿様のために薄くて軽い茶碗をこしらえるが、その使い心地は……「殿さまの茶わん」。
 飴チョコの箱に描かれた天使が、工場から出荷されて、いろいろな旅をする……「飴チョコの天使」。
 などなど、懐かしいような、物悲しいようなストーリーは、大人でも楽しめると思う。
 それから、いわゆる「モノ」を擬人化している作品がいくつかあったが、そのような視点で描かれる世界もまた面白かった。
60点

本当はちがうんだ日記

穂村弘(集英社)

 またまた穂村さんがやってくれました。面白すぎです。

 たとえば「みえないスタンプ」という話。
 どこかに見えないスタンプ帳が存在し、人間の言動ひとつひとつにスタンプが押されていく。良いことは「正」、悪いことは「負」のスタンプ。それが一定個数たまると、景品がもらえる。ダイエットしていて、急に体重が落ちるのは「正」のスタンプがたまったからでは?
 自分が性欲満々のキスばかりしていたら「負」のスタンプがたまったらしく……オチは本編でどうぞ。
 分かる。そして笑える。

 あるいは「クリスマス・ラテ」という話。
 将来、何になろう。何をしよう。
 と考えてふっと思い出す。
 あ、もう、今が将来なんじゃん。
 俺、四十一歳だし。総務課長になっているんだし。
 
……。
 穂村さん、ノストラダムスの予言もはずれ、2000年問題も無事通過できて、本当に良かったですね。ふははは。
95点

おめでとう

川上弘美(新潮社)

 12の短編が収められている。
 私が好きなのは「夜の子供」。
 二年間一緒に暮らした竹雄と、五年ぶりに偶然再会した朝子。二人はなんとなくナイターを見に行くことになり、そこでとりとめのない話をする。
 勝手なことを言う竹雄に、腹を立てる朝子。でも言い返したりはしない。「言い返して、なんとしょう」。そんな表現が、朝子の竹雄に対する距離感をうまく描いている。

 小物の使い方もまた絶妙である。竹雄の差し出すイチゴミルク。あの甘い味が私の口にも広がるような感覚をおぼえた。
 こういう何気ない短編集こそ、川上氏の真骨頂を示すものだ(でも長編も好きだけど)。
85点

世界音痴

穂村弘(小学館)

 エッセイ集。
  『にょっ記』とは少し趣が違うエッセイ。というか、こちらのほうが早く書かれたものなので、穂村氏の若気の至りというか、ダークサイド全開、といった印象。
 もう「私」しか熱中するものがない、とか。
 「自然さ」を奪われた者は、世界の中に入れない、とか。
 穂村氏の意外な暗さに面食らった。

 ひとつ「あぁ分かる!」と思った話を紹介しよう。
 映画が始まると、どんなに面白い映画でも「早く終われ」と思う、という話。これから自分がどきどきしたり感動したりするという、その期待と緊張が苦しい、と彼は書いている。
 私も映画を観始めると、何かもやもやしたものを感じていた。具体的な言葉にすると、そういうことだったのかもしれない。
80点

カレンダー

06 2025/07 08
S M T W T F S
1 3 4
6 7 9 10 11 12
14 15 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

カテゴリー

フリーエリア

最新コメント

[07/17 まきまき]
[07/17 ぴーの]
[06/16 まきまき]
[06/16 ぴーの]
[06/10 まきまき]

プロフィール

HN:
まきまき
性別:
女性

バーコード

ブログ内検索

P R

カウンター

アクセス解析