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君たちはどう生きるか

吉野源三郎(岩波書店)

 中学一年生のコペル君の体験をとおして、人生いかに生きるべきか、モラルとは? 社会認識とは? 等々を問う作品。
 こういう本を良書というのだろう。分かりやすい、面白い、飽きさせない、そして(陳腐な言い方だが)為になる。

 誰もが中学生のときに体験するようなエピソードがたくさん出てくる。
 たとえば友人がリンチを受けているのを傍観してしまうシーン。コペル君の後悔が痛いほど伝わってくる。
 そこで彼の叔父は言うのだ、「どんなにつらいことでも、自分のしたことから生じた結果なら、男らしく耐え忍ぶ覚悟をしなくっちゃいけないんだよ」。責任転嫁ばかりする人間が増えている今、叔父さんの言葉が重く響く。

 それから、貧しい暮らしをしている友人・浦川君について、叔父さんは言う。「君が、浦川君のうちの貧乏だということに対して、微塵も侮る心持をもっていないいうことは、僕にはどんなにうれしいか知れない」。コペル君はたまたま恵まれた環境にいるが、浦川君のように「生産する人々」がいるからこそ、社会は成り立っている。彼らを敬いこそすれ、決して見下してはいけないと叔父さんは繰り返す。

 まだまだ紹介したい良い話があるのだが、きりがないのでこのへんで。とにかくこの題名でもって敬遠することなく……小難しい哲学書かと思い、私は手に取るまでに時間が掛かった……学生の方にも大人にも読んでいただきたい一冊である。
95点
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夜の公園

川上弘美(中央公論新社)

 結婚して二年ほど経った35歳のリリ。彼女は夜の公園で知り合った暁と、なんとなく関係を結ぶ。
 リリの夫・幸夫。彼はリリの友人である春名と不倫関係にある。
 その春名は、幸夫の他にも男性がいる。7歳年下の悟。暁と悟は兄弟であった……。

 粗筋を書いて気付いた。これじゃあまるで三流小説じゃないか。
 しかし作品を読んでいるときは、その圧倒的な「さりげなさ」に飲み込まれて、卑猥さも陳腐さもさほど感じなかった。主人公のリリが、あまりにも私好みの女性だからかもしれない。
 夫を好きではなくなった自分を客観視できるリリ。不思議な清潔さを身に纏っているリリ。一人でいるのが似合うリリ。
 決して損なわれることのない彼女の気品がストーリーの中枢に在って、全体を引き締めている。

 春名もまた、この作品に欠くことのできない存在であろう。
 リリと対極にある彼女は、とてもなまめかしくて刹那的だ。自分を「あたし」と呼ぶ春名。その下品な感じが、彼女らしくていい。
85点

プリズンの満月

吉村昭(新潮社)

 戦犯を収容していた「巣鴨プリズン」。鶴岡は、そこで刑務官として働いていた。
 戦勝国による裁判で囚人となった日本人を、日本人が警備する、という世界でも例を見ない特殊な状況下にあった場所。
 鶴岡ら刑務官には銃の携帯が義務付けられていて、囚人に「それで我々を撃つのか」と訊かれるシーンなど、彼らのとまどいが良く理解できる部分である。

 史実と虚構が入り混じっているというが、昭和三十年代までこのような施設があったことは事実だそうだ。
 戦後というイメージからも離れていた時代。だが、巣鴨プリズンの中だけは戦後を引きずっていたのである。
 そこで無為な時間を過ごさざるを得なかった人々の苦悩は、深い。
70点

iレディ

吉村達也(角川書店)

 「鬼部長」の異名をとる今泉謙作。彼がひそかにはまっているのは、ネット上で女性になることだった。
 だが彼の作った架空の女性「松本リカ」が、やがて暴走しはじめ……。

 前半はコメディとして楽しんで読むことができた。しかし後半は「ネットの世界」の暗部を見せ付けられたようでとても笑えなかった。
 今泉が下請け業者に対して暴言を吐いたことがネットで公開されそうになった事件など、実にいやな気分になった。彼の言動は非人道的であったが、それを全世界に公開する、というのは正しい(?)復讐の方法ではない気がした。
 そして松本リカの正体であるが、こんなことは不可能だろうという思いと、もしかしたらという思いが交錯して、その点においてもいやな恐怖感を味わった。
65点

よしもとばななドットコム見参!

よしもとばなな(新潮社)

 よしもと氏の公式サイトで書かれていた日記をまとめたのが本書。
 人気作家の日常は、かなり面白く読むことができた。ショッピングで燃えたり、おいしいお店を見つけて喜んだり。けっこう普通? と思ったり、でもお金の掛け具合は、やはり普通じゃないなと思ったりした。

 ただひとつ、次の話はかなり疑問に思った。
 奈良県のとある銭湯に行ったときのこと。彼女は小さな入れ墨があるそうなのだが、その銭湯では「入れ墨お断り」だった。それまでどこへ行ってもバンドエイドで隠せば入れてもらえた。だがそこでは断固として入れてもらえなかった。
 彼女はひとり別室で、同行した人たちを待つはめになった。
 という話なのだが。よしもと氏はその銭湯を実名で(許可はとったらしい)、かなりの勢いで非難しているのだ。
 しかも複数の人にこの話をし、同意をもらって喜んでいる。

 私はこれでよしもと氏がすっかり嫌いになった。入れ墨を入れた時点で、銭湯には入れないことを自覚すべきであろう。
 また客なのだから、ある程度のルール違反は目をつぶれという論理。加えて従業員に向かってどなり、論破したことを得意げに書いている点。どれもこれも傲慢としか言いようがない。
 あくまで屈しなかった銭湯側を、私は賞賛したい気持ちである。
20点

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