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よしなしごとども 書きつくるなり
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小川未明(新潮社)

 25の童話が収められている。説教くさい話は少なくて、淡々と出来事を書き綴った作品が多い。

 有名な陶器師が、殿様のために薄くて軽い茶碗をこしらえるが、その使い心地は……「殿さまの茶わん」。
 飴チョコの箱に描かれた天使が、工場から出荷されて、いろいろな旅をする……「飴チョコの天使」。
 などなど、懐かしいような、物悲しいようなストーリーは、大人でも楽しめると思う。
 それから、いわゆる「モノ」を擬人化している作品がいくつかあったが、そのような視点で描かれる世界もまた面白かった。
60点
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穂村弘(集英社)

 またまた穂村さんがやってくれました。面白すぎです。

 たとえば「みえないスタンプ」という話。
 どこかに見えないスタンプ帳が存在し、人間の言動ひとつひとつにスタンプが押されていく。良いことは「正」、悪いことは「負」のスタンプ。それが一定個数たまると、景品がもらえる。ダイエットしていて、急に体重が落ちるのは「正」のスタンプがたまったからでは?
 自分が性欲満々のキスばかりしていたら「負」のスタンプがたまったらしく……オチは本編でどうぞ。
 分かる。そして笑える。

 あるいは「クリスマス・ラテ」という話。
 将来、何になろう。何をしよう。
 と考えてふっと思い出す。
 あ、もう、今が将来なんじゃん。
 俺、四十一歳だし。総務課長になっているんだし。
 
……。
 穂村さん、ノストラダムスの予言もはずれ、2000年問題も無事通過できて、本当に良かったですね。ふははは。
95点
川上弘美(新潮社)

 12の短編が収められている。
 私が好きなのは「夜の子供」。
 二年間一緒に暮らした竹雄と、五年ぶりに偶然再会した朝子。二人はなんとなくナイターを見に行くことになり、そこでとりとめのない話をする。
 勝手なことを言う竹雄に、腹を立てる朝子。でも言い返したりはしない。「言い返して、なんとしょう」。そんな表現が、朝子の竹雄に対する距離感をうまく描いている。

 小物の使い方もまた絶妙である。竹雄の差し出すイチゴミルク。あの甘い味が私の口にも広がるような感覚をおぼえた。
 こういう何気ない短編集こそ、川上氏の真骨頂を示すものだ(でも長編も好きだけど)。
85点
穂村弘(小学館)

 エッセイ集。
  『にょっ記』とは少し趣が違うエッセイ。というか、こちらのほうが早く書かれたものなので、穂村氏の若気の至りというか、ダークサイド全開、といった印象。
 もう「私」しか熱中するものがない、とか。
 「自然さ」を奪われた者は、世界の中に入れない、とか。
 穂村氏の意外な暗さに面食らった。

 ひとつ「あぁ分かる!」と思った話を紹介しよう。
 映画が始まると、どんなに面白い映画でも「早く終われ」と思う、という話。これから自分がどきどきしたり感動したりするという、その期待と緊張が苦しい、と彼は書いている。
 私も映画を観始めると、何かもやもやしたものを感じていた。具体的な言葉にすると、そういうことだったのかもしれない。
80点
小川一水(早川書房)

 四つの作品が収められているが、最後の『漂った男』が良かった。
 惑星パラーザに不時着したタテルマ少尉。その惑星は陸地のない、茫洋とした海が広がる惑星であった。呼吸可能な大気、適温の海水、しかもその中にはゲル状の食べられる物質が含まれている。当分生きていくことが出来る……安心したのも束の間、その広すぎる海にあって、彼の位置が特定できないという連絡が入る……。

 永遠に救援部隊が来ないかもしれないという絶望感のなかで、タテルマは「生」の意味を自らに問う。一生この海を漂うのなら、そこに意味を見出したい、と。そして考え続けることこそが糧となると彼は確信する。
 どこにいても、どんな環境でも、生きる意味はきっとある。彼の強靭な精神力が、そう教えてくれた、天啓のように。

 外国の古いSF小説のような、味わいのある、良い作品集であった。
75点
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