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ヴィヨンの妻

太宰治(新潮社)

 八つの短編集。「トカトントン」を紹介しよう。
 主人公は郵便局に勤める二十六歳の男。平凡に生きてきた彼が、ある時から金槌で釘を打つような「トカトントン」という音に取り憑かれる。
 真剣に何かに取り組んでいるとき、何かに心から感動したとき、どこからともなくトカトントン。その刹那、すべては色褪せ、くだらなく思えてしまう。

 彼のように極端ではないにしろ、誰にでもこんな経験はあるのではないだろうか。ふっと我に返って「自分は一体何をしているのだろう」と疑問に思う瞬間が。
 他に「親友交歓」も皮肉たっぷりで面白く、特に最後の一行が奮っている。
90点
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大極宮

大沢在昌・京極夏彦・宮部みゆき(角川書店)

 大沢在昌、京極夏彦、宮部みゆきの三人がWeb上で書いた日記をまとめたのが本書。
 当たり前のことかもしれないが、性格も生活も三者三様、ばらばらであった。

 大沢氏はミステリー系の文学賞の選考委員を務めているらしく、その内幕なども少し書いてあって楽しめた。彼のゴルフ話は飽きたが。
 京極氏は意外にも(?)良き夫、良き父親であろうと、努力しているらしい。
 宮部氏は予想以上の「ゲーマー」であった。

 しかしながら、この三人。売れっ子だからかもしれないが、とにかくいろいろな人間と接触している。作家というのは孤独を愛する人ばかりではないのだなぁと、認識を新たにした。
55点

お伽草紙

太宰治(新潮社)

 井原西鶴の作品を太宰流にアレンジした「新釈諸国噺」は、多数のショート・ショート。
 いわゆる「武士道」の理不尽さ加減、あるいはくだらないこだわりに、いちいち感嘆してしまった。こんな時代に生きた人達は、さぞかし大変だったろう。

 浦島太郎のパロディである「浦島」は、低俗すれすれの絶妙なバランス感覚が良い。
 ここに出てくる亀は雄弁で、小心者の浦島をこきおろしたりして痛快である。また竜宮城の在り方も、太宰が考える「真の幸福」論を垣間見ることができるようで興味深い。
90点

人間失格

太宰治(新潮社)

 太宰は読む前から好きだった。本から「ゆううつ」が立ち昇ってくるような雰囲気が。読んで見て、やはりハマった。
 特にこの作品。自分はダメな人間だと思い込んでいる主人公は、学校では「ひょうきん者」になりすましている。でも級友になにげに「ワザ、ワザ」と指摘されて、がーんっていうくだり、何度読んでも血の気が引いてゆく。B級、いやA級ホラー小説より底知れぬ恐怖を感じる。
 太宰は代名詞のように「暗い」と言われるが、この作品は暗いのではなく「深い」。
100点

百年目

新潮文庫編集部編(新潮社)

 ミレニアム記念特別文庫。豪華な顔ぶれのアンソロジー。阿川弘之、さくらももこ、ビートたけし、町田康……さすがにみんなおもしろい。

 とりわけ気に入ったのは、平岡倭文重の「暴流のごとく」。筆者は三島由紀夫の母親。
 三島が幼い頃に彼女が書いたという日記は、姑との凄まじいまでの確執に覆い尽くされている。姑は癇の強い女性で、三島を母親から引き離して、独占しようとする。三島はそんな祖母に、健気にもなついているフリをする。
 母親が書いたものだから、少し割り引いて考えても、三島由紀夫という人は、本当に純粋で感受性豊かな人だったようだ。彼の作品をまた読みたくなった。
65点

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