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よしなしごとども 書きつくるなり
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川上弘美(幻冬舎)

 高校教師であるマリエには、ミドリ子という教え子がいた。ミドリ子には露天商を営む紅郎という兄がいて、マリエは紅郎と付き合うようになる。
 紅郎の部屋にはマキさんとアキラさんという幽霊が出るし、ミドリ子はたびたびやってくるしで、マリエはとりとめのない「こわさ」を抱くのだった……。

 川上氏が描く恋愛にしてはめずらしく、この作品には濃い部分があった。マリエが姉と春画の真似をして遊ぶシーンしかり、ミドリ子をしつこく追いかける鈴本鈴郎しかり。
 だが思わず身を乗り出すと、ひらひらとはぐらかされる。さすがは川上氏。
 個性的で魅力的な挿話もいつもどおりたくさんある。特に姉のする作り話が傑作。そこだけを膨らませて、別な小説を書いて欲しいほどである。
90点
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古川日出男(文藝春秋社)

 1943年、アリューシャン列島の中の一つの島に、四頭の軍用犬が放置される。彼らと、その子孫にあたる犬たちは、幾多の戦争、抗争に身を投じざるを得なかった……。

 著者の本を読むのは二冊目だが、この人はこういうふうに文章を書きたい人なのだな、とやっと理解した。こういうふうとはどういうふうかと言うと、思いついたまんま、だ。
 ときに視点はブレて、言葉は暴走する。そんな細かいことは気にしない、と思える読者ならいいのかもしれないが、私には無理だ。
 ストーリーもどんどん登場人物(犬物?)が増えて拡散していくタイプの話で、それも苦手とするところなので、なおさら受け容れ難かった。
50点
小川洋子(中央公論新社)

 夫に突然離婚を突きつけられ、突発性難聴になってしまった「わたし」。
 彼女はとある座談会でYという速記者と出会う。Yの、細やかで無駄のない指先の動きに、彼女は釘付けになる。やがて再会を果たした二人は、ゆっくりと、ひっそりと打ち溶け合ってゆくのだった。

 浮気や離婚に関する生々しい描写と、「わたし」とYの形作る、幻想のような世界の描写との対比が際立つ。ジャスミンの香りただようホテルの一室、行き先の分からないバスなど、心地よく現実離れしていて良かった。
 ただ、終盤の展開はあまり気に入らなかった。「わたし」がYを呼び付けるシーンなど、その度を越えた弱さに唖然とさせられた。
70点
古川日出男(河出書房新社)

 作家フルカワヒデオの魂の彷徨を描いた、支離滅裂な一冊。
 何だかよく分からなかった。人に勧められる作品でないことは確かだが、駄作として切って捨てるのも違う気が……あ、ぴったりの言葉があった、マニアック、だ。この独特の世界は、ハマれば楽しむことが出来ると思う。
 ハマらなかった私でも、面白いと思えるところはあった。ヤフーBBの勧誘話とか、ヴィトンの直営店の話とか、南東北ってどこだよと憤るシーンとか。この例だけでも、この作品がどんなに風変わりか感じ取っていただけることと思う。

 物語の最後の一文には句点がない。そこで最初の一文に戻ると……なるほど。こんな仕掛けもマニア向けかもしれない。
40点
小川洋子(講談社)

 芸術家が集まる<創作者の家>で、管理人を務める「僕」。彼の元に、ある日怪我をした動物がやって来る。ブラフマンという名前をつけ、彼は動物と一緒に暮らし始める。いらずらっ子のブラフマンに彼は愛情を注ぐが……。

 主人公は決して激昂したりせず、いつも淡々と事実だけを述べる。それがときにこの上なく嫌味に聞こえるから不思議だ。
 レース編み作家にブラフマンの存在を気付かれたときの描写など、彼の「何が悪いんだ」という意識が見え隠れして、結構うんざりさせられた。
 また、彼にはひそかに想いを寄せる娘がいた。その接し方は、彼女が自己嫌悪に陥るように仕向けているようにも思え、ひどく女々しく感じられた。

 私の期待が大きすぎたのかもしれないが、この作品は退屈だった。
60点
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