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よしなしごとども 書きつくるなり
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小川洋子(角川書店)

 短編集。
 『森の奥で燃えるもの』が気に入った。
 「収容所」にやってきた「僕」は、アパートの一室で暮らし始める。美術館での仕事も決まり、登録係の女の子とも親しくなれた。だが「僕」には気になることがあった。ここには時間を指し示すものが一切存在しないのだ……。

 これは、いわゆる「あの世」の話であろうか。時間というものが無く、主人公が永遠を手に入れたと説明されているあたりが、いかにもそんなふうだ。
 この世とあまり変わりがないようなあの世。だが、収容所という言葉の禍々しい響きや、暖炉の炎が青白いという、視覚的な不気味さが、やはり「死」をイメージさせもする。
 他の作品もみな静かな、それでいて抜き差しならぬ恐怖を湛えていて、ぞっとさせられた。
75点
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藤原伊織(文藝春秋社)

 四つの作品が収められている。
 表題作『ダックスフントのワープ』。
 大学生である「僕」は、十歳になるマリの家庭教師を引き受けることになる。といっても勉強を教えるわけではなく、作り話をしゃべるだけ。「僕」はダックスフントの冒険譚を彼女に語ってきかせるが……。

 解説にもあったが、村上春樹の作風にかなり似ていると私も思った。シニカルで気取った雰囲気の主人公のセリフが特に。それから本編に負けるとも劣らない面白さを持つ挿話も。
 まぁそんな比較はどうでも良いのだが。

 「僕」というのは、何てタチの悪い人間なのだろう。訳知り顔で物事を分析し、そのうえいつも傍観者でいようとする。まったくいけ好かない。
 ラストの後味の悪さもまた格別だ。許されざる未必の故意だと思った。
75点
小川洋子(新潮社)

 短編集。現実的でいて幻想的な、八つの短編が収められている。

 少しホラーの要素もある『匂いの収集』。あらゆる匂いを収集するのが趣味の「彼女」。「僕」はとまどいながらも、その趣味に理解を示していた。あるとき「彼女」の留守中に「僕」は、とんでもないものを見付けてしまう……。
 そこはかとなく危うい空気を醸し出しながら進むストーリー、それはラストのおぞましいシーンで、見事にクライマックスを迎える。思わず上手いなぁと唸ってしまった。
 その他、表題作の『まぶた』も、まるで夢のような部分があるかと思えば、カードで支払いが出来ないという、あまりにも現実的な部分もあったりして、その対比が面白かった。
80点
小川洋子(文藝春秋社)

 夫の暴力から逃れ、一人別荘にやってきた瑠璃子。そこで彼女は、近所に住むチェンバロ制作者・新田と、その弟子・薫に出会う。
 瑠璃子は次第に新田に惹かれはじめ、同時に薫の存在を疎ましく思うのだった……。

 小川氏がこんなにドロドロの世界を書いた、ということにまず驚いた。瑠璃子は結構な策士で、厭な女だ。
 彼女の立場や性格というのは、脇役がお似合いだと思うのだが、あえて主役として語らせることで、ストーリーに一種のねじれ感が生じているような気がした。瑠璃子の気持ちはいいから、薫の本心を知りたいと、何度も思った。
85点
古井由吉(新潮社)

 連作短編集。
 その最後に収録されているのは『始まり』という一編。
 母親を亡くした男は、納骨のために出向いた寺である女性に会う。彼女は、男の母親の入院先で会ったことのある人だった。聞けば彼女の父親も亡くなったのだという……。

 とても難しい短編集であった。唯一意味が読み取れた思えたのは、この作品だけ。
 他のは過去と現在が入り乱れ、ずいぶん奇怪な話だと訝れば夢の話、加えて生々しい濡れ場があったりで、読んでいて途方に暮れてしまった。
 『始まり』も読み辛かったが、女性の半生が順を追って語られているので、何とか理解できた。
 病に侵されて次第に狂気をはらんでいく父親を、粛々と見守る娘。底知れぬ暗い穴を覗き込んでしまったような、胸騒ぎを覚える一編であった。
50点
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