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東京島

桐野夏生(新潮社)

 無人島に漂着した清子と隆夫婦。その後、二十三人の日本の若者、十一人の中国人が島に流れ着く。清子以外は全員が男性という異常な環境のなかで、四十七歳の清子は女王然としてふるまうのだった……。

 清子の、あまりにもあけすけな自己中心っぷりに呆然としながら、しかしいっぽうでは感嘆しながら読んだ。極限状態のなか、彼女の「絶対生き抜いてやる」という執念は、ぐだぐだになった男より、よっぽど男らしく清々しく感じられた。
 また、この本の面白さは、その独特の地名にもあるだろう。謎のドラム缶が放置された浜は「トーカイムラ」。数人の死体が葬られた岬は「サイナラ岬」。小高くて平べったい岬は「コウキョ前広場」。言い得て妙。
 ラストの章がまた意外性たっぷりで読ませる。ある人物による聞き書きなので、どこまで本当の話か分からないのだが、それが逆にリアリティを感じさせるから不思議だ。
80点
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I'm sorry,mama.

桐野夏生(集英社)

 母親に捨てられ娼館で育ったアイ子。中年となった彼女は悪事の限りを尽くす。窃盗、放火、殺人……邪魔者は消すという考え方の彼女の行き着く先はどこか。

 アイ子のあまりの毒婦っぷりに、寝る前にはとても読む気になれなかった。実は私の身近にこんな女性がある時期存在したのだ。もちろん殺人まではしてなかったと思うが、舌先三寸で言いくるめるのが得意で、他人は騙すが猜疑心が強く、性欲の塊で、おまけに大柄小太り。思い出すだけで気分が悪くなる。
 閑話休題。
 アイ子は「育ちが悪い」と言われるのが一番頭にくるという。生い立ちは自分では変えられないことなので、そこには唯一共感できた。しかし、それは犯罪の免罪符には決してなり得ない。
 終盤で彼女には「衝撃の真実」が告げられ腑抜けのようになっていたが、正直ザマーミロと思ってしまった。こんなに主人公の破滅を期待した小説はいまだかつて無かったかもしれない。
85点

残虐記

桐野夏生(新潮社)

 小説家である景子は、10歳のとき25歳の男に拉致され、一年間監禁されたという過去を持つ。その顛末を記した『残虐記』という小説の原稿を残し、彼女は忽然と姿を消す。彼女自身の手によって明かされる、25年前の事件の真実とは。

 拉致される瞬間の描写、犯人に暴力を振るわれる描写に心底震えた。景子の絶望を思い、自分だったら、さらにはわが子だったらと考えると恐ろしさに胸が詰まった。
 そして救出されてからの彼女の運命もまた過酷であった。世間から向けられる好奇の目に耐え、そばには不安定な母親がいる。景子が空想の世界に逃げ込むのも無理はない。
 しかし彼女はやがて空想の世界でも絶望する。男の性というものが理解できない、この目で見たことの「中身」が分からない、と。犯人をただの異常者だと切って捨てられず、事件について考え続ける彼女に哀れを感じた。
80点

墨東綺譚

永井荷風(新潮社)

 時折小説を書いたりして、気ままに生活していた大江氏。
 彼が街を散策していたあるとき、お雪という女性と出会う。彼女は娼婦だったが、溌剌として美しい女性だった。

 大江氏の淡々とした自分勝手な生き方が、なぜだか憎めない。お雪を「ミューズ」と評しながらも、彼女に言い寄られそうになると途端に逃げ腰になる。本当は彼は女性不信なのだ。それをうだうだと言い訳する様に、苦笑してしまった。
 また、昭和初期の人々の生活ぶりがいろいろと描かれている。威張り散らす巡査、ラディオから流れる浪花節、初冬の落ち葉焚き。私は長ったらしい背景描写は苦手だが、この作品のそれは楽しんで読むことができた。

 ※題名の1文字目は、本当はさんずいのついた「墨(ぼく)」です。
65点

グロテスク

桐野夏生(文藝春秋社)

 スイス人と日本人の混血児である「わたし」とユリコ。凡庸な「わたし」と絶世の美少女ユリコは互いを憎悪し合う。
 やがて二人は、とある一流学園の生徒となり、和恵とミツルという少女たちと出会う。四人の人生は、交錯しながら次第に奈落の底へと落ちてゆく……。

 なんてタイトルどおりの作品なのだろう。主人公の四人が四様の異常さで迫ってくるのだ。
 まず主な語り手である「わたし」。彼女は悪意のかたまりのような人間で、その話を信用していいのかどうか分からないような仕掛けになっている。
 娼婦となったユリコと和恵の手記もまた凄まじい。人はどこまで堕ちることができるのか、競い合っているかのようだ。

 起承転、まで面白く読んだが、結がよくない。この部分は不必要な気がしたのだが、すべてが過剰なこの作品、最後まで「行き過ぎ」感を出したのかもしれない。
80点

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