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残虐記

桐野夏生(新潮社)

 小説家である景子は、10歳のとき25歳の男に拉致され、一年間監禁されたという過去を持つ。その顛末を記した『残虐記』という小説の原稿を残し、彼女は忽然と姿を消す。彼女自身の手によって明かされる、25年前の事件の真実とは。

 拉致される瞬間の描写、犯人に暴力を振るわれる描写に心底震えた。景子の絶望を思い、自分だったら、さらにはわが子だったらと考えると恐ろしさに胸が詰まった。
 そして救出されてからの彼女の運命もまた過酷であった。世間から向けられる好奇の目に耐え、そばには不安定な母親がいる。景子が空想の世界に逃げ込むのも無理はない。
 しかし彼女はやがて空想の世界でも絶望する。男の性というものが理解できない、この目で見たことの「中身」が分からない、と。犯人をただの異常者だと切って捨てられず、事件について考え続ける彼女に哀れを感じた。
80点
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